こんにちは。レティシアンスタッフのMとHです。
前回のコラム「【動物福祉・動物愛護とは】犬猫の殺処分をめぐる状況などご存知ですか?」にて、動物の保護施設についてご紹介いたしました。
今回は「NPO法人 東京キャットガーディアン」様にご協力いただき、保護施設の1つである保護猫カフェを見学・取材させていただきました。保護猫カフェや東京キャットガーディアン様についてお話しつつ、取材内容を報告させていただければと思いますので、ぜひ最後までお付き合いいただけますと幸いです。
目次
東京キャットガーディアン様の保護猫カフェはどんな施設なのか
JR大塚駅南口から徒歩3分、駅前にある白い大きな鳥居を抜けた先のウィンドビルの5階に東京キャットガーディアン様の「保護猫カフェ(開放型シェルター)」があります。
東京キャットガーディアン様の活動は多岐にわたっています。
・保護猫カフェの運営
・不妊去勢手術やシェルターの医療を行う「そとねこ病院」
・飼育困難になった成猫引き取りと再譲渡のための「ねこのゆめ」
・日本初の「猫付きマンション」「猫付きシェアハウス」「猫付きカンパニー」の運営
・保護活動経費のためのリサイクルショップの運営
・ペット保険の代理店の運営
・猫についての様々な講演、セミナーの開催
・YouTube「ShippoTV」で保護猫の様子や保護活動についての発信 など
保護猫カフェの運営時間は「月・水・木・金(14:00~18:00)、土日祝(13:00~18:00)」となり、火曜日は定休日です。現在のスタッフ数は常勤の方が29名、ボランティアの方が30名以上の合計約60名体制で運営されており、来店した際には受付でスタッフの方からカフェ内の説明や注意事項を受けてから入店します。
保護猫カフェの入場料はありませんが、ネコちゃんたちへの寄付を募っています。受付スペースには猫のお世話グッズからオーナー様グッズなどの猫関連グッズの販売もあり、これらの売り上げはネコちゃんたちのレスキュー活動費になります。
カフェスペースに入ると、数頭のネコちゃんがお出迎えをしてくれました。夕方頃に伺ったこともあり、お気に入りのスペースで寝ている子が多かった印象でしたが、中にはネコちゃん同士で追いかけっこをしながら遊んでいる子も。ネコちゃんたちがのびのび過ごしている様子が伺え、なんとも癒される空間でした。
取材させていただいた日は、ちょうどカフェデビュー準備中の子が多く、ケージにはネコちゃんたちのストレス軽減のためにタオルが被せられていました。
東京キャットガーディアン 代表の山本様へのインタビュー
この日は東京キャットガーディアン代表の山本様にお話をお伺いすることができました。ここからはインタビュー形式でご紹介いたします。
——保護頭数はどのくらいになるのでしょうか?
月に最大で100頭以上になることもありますが、保護頭数は平均して月40頭くらいでしょうか。特に子猫が産まれるシーズンは保護頭数が大変多くなります。月間と年間の受入数・譲渡数・力及ばず亡くなった数は、団体概要の譲渡実績に16年前からすべて記載しております。
設立当初は80頭の受け入れから始めました。現在は月に40~60頭くらい譲渡をしており、収容数は200~350頭までです。
東京キャットガーディアン様の譲渡実績はこちら
——行政からだけではなく、スタッフの方が保護したネコちゃんなども受け入れられているのでしょうか?
設立当初と今とではだいぶ状況が異なりますが、2008年の設立当初は東京動物愛護相談センターなど、行政からの猫の受け入れが100%でした。当時のセンターには子猫を筆頭にものすごい数の猫たちが収容されていて、かなり短い時間で殺処分になっていたので、まずはそれを救うという状態でした。
そのあと、保健所(東京都3ヶ所・埼玉県2ヶ所・神奈川県2ヶ所)から猫を連れてくるということを始めました。そして、行政に収容される猫たちが事実上少なくなってきたことにシンクロして、一般の方がレスキューした(道で拾った)猫や、自分の家の物置で産まれてしまった猫、実家に帰ったら庭にいた猫などの受け入れも始めました。
今は2ヶ月以内の子猫であれば無償でお引き取りするようになりました。現在はそういった子猫・外猫がほとんど100%に近いです。それ以外ですと、警察経由や飼い主さん自らこちらに直接お話をいただく場合もあります。
なお、ご事情ができて猫を飼えなくなってしまった方のために、有償となりますが、大人の猫もお引き受けをしています。
——保護したネコちゃんが保護猫カフェにデビューするまで、訓練などどのくらいの期間がかかりますか?
早くデビューできることに越したことはないと思いますが、デビューのタイミングは猫によります。様子を見ながら、その子それぞれに必要な時間を使います。
保護猫なので健康体で入ってくることは少ないです。猫は環境の変化に弱い動物ですので、まず治療やケアをしてから体調・メンタルともに整ったらデビューとしています。
——譲渡にあたって里親面談をすると思いますが、その際に大事にしていることや気を付けていることはありますか?
“適正な飼育者” という言い方なのですが、猫を適正に飼育できる人に譲渡したいですね。独身やカップルといった属性では選んでいないですが、経済力がおありになって、それを猫に使う気があり、猫についての知識がある人です。選べるのでしたら誰よりも良い人を探したいと思っています。
ただ、たくさんの譲渡を望んでもいますので、ハードルを下げているわけではないですが、“この人に託したら大丈夫” という人に譲渡をします。そのため、こちらが判断するというよりも 「私はこういう風に大丈夫です」ときちんと説明できる人というのが最低条件ですね。
面談担当は私含めて数名いますので、人によって多少ジャッジが異なってしまうのですが、自分の猫を譲渡できる相手かどうかという視点でジャッジをしています。
——譲渡が決まったネコちゃんにトライアル期間や、後日新しいおうちを訪問することはありますか?
当施設では「合わなかったら返す」という考え方を良しとしていません。
人間にもそれぞれ個性があるように、猫も生き物なので性格が細部にわたって分かる子はいません。仮に分かっていたとしても新しい環境で同じような振る舞いをするとは限らないです。猫との暮らしは一緒に時間を重ねながら信頼関係を築いていくもので、引き取った子が思っていた子と違うからやめるという話ではないと思います。そういう意味で、当施設ではトライアルを設けていません。
また、新しいおうちを後日訪問することもしていません。経済事情やパートナーの属性など、踏み込んだことをたくさんお聞きしたうえでOKをだしているお相手です。それ以上の介入は不要だと思いますのでしていません。
面談が最後の砦となりますが、相手から猫についてのご相談やその後のお話などをいただくことは多々あります。メールやお電話など24時間体制で承っています。
——2頭目のお迎えを希望された場合、2頭目の子も1頭目の子と同様の流れで譲渡になりますか?
以前OKを出していたとしても、現在適正かどうかは分からないのでもう一度面接を行います。そして1頭目を譲渡していても、もし適正でないと判断した場合にはお断りしています。
——スタッフさんのお仕事の1日の流れを教えてください。
飼育スタッフは基本9:00から作業を開始します。出勤後すぐにごはんのお世話からスタートします。ごはんは猫それぞれで内容やあげ方が異なりますので、数名が付きっきりでカートを回していきます。そしてごはんを回していくすぐ後ろでケージの掃除も始めます。掃除はボランティアさんにもお手伝いいただきますが、飼育の肝のところ(ごはん・投薬・処置)は正規スタッフのみが対応しています。
ケージは1フロアにだいたい100ケージ以上あり、全部を出してトイレや水を交換して、床を拭いて猫たちも綺麗にします。そのため、お昼前に掃除が終わるといいねという感じです。
スタッフは前半の9:00~18:00と後半の15:00~終わりまでの2交代制で行っており、電子カルテを使用しての申し送りがあります。電子カルテには気になることや、ワクチン・オペがあるかないか、急患がいるかいないかなど記入しています。業務の引継ぎが終わり18:00くらいになったら、後半のスタッフが前半と同じようにごはんと掃除を行います。
具合の悪い子や食べが弱い子がいると帰宅が遅れてしまいますが、終電までには必ず帰るようにしています。台風などのときはスタッフの帰宅が心配なので、ごはんの時間を早めることもあります。
——保護猫活動をしていくうえでたくさんの費用が必要だと思いますが、リサイクルショップやお客様からのご寄付以外でどのように費用をまかなっているのでしょうか?
まずは譲渡費用ですね。実費の何分の1という感じですが、新しい飼い主さんから1頭につきだいたい4万円強いただいています。そして、ペット保険代理店手数料。(ペット保険の代理店活動は、動物のNPO法人としては初の試みで、譲渡の際に必ず代理店を行っている保険のどこか加入いただくそうです)
また、企業さんのペットフードロスという問題に焦点をあて、消費期限が切迫している商品やパッケージの変更などの商品を仕入れさせていただいて、源吉商店通販部の名前で、全国の保護活動者様に向けて支援価格で提供しています。
さらに、早い時期から通販も始めていたので、「お買い物でレスキュー」というキャッチコピーでshippoTV通販部を運営しており、自分のおうちの子のごはんなど、必要なものを買っておまけのように当施設に寄付してくださるというようにしています。今では埼玉県にピッキングセンターを借りる規模になっています。
しっぽ不動産や猫付きシェアハウス・マンション・カンパニーもやっていますし、あとは保護猫カフェご入場の際の寄付も収益です。
また、猫たちの様子を知らせている「Fants」という支援サイトもあります。
治療の必要な猫たちに養い親としてフォスターペアレントを募集して、対象の子をネット上で配信して毎月のごはん代や薬代をご支援いただいています。ご寄付いただいた方には、対象の子の写真や動画をお送りしています。
fantsでフォスターペアレントを募集している “すずめちゃん”
神経症状があってまっすぐ歩くことが困難だそうです。
——猫付きマンションや猫付きシェアハウス、猫付きカンパニーを実現のするために大変だったことや印象に残っていることはありますか?
猫付きマンションや猫付きシェアハウスは、意外にも簡単に実現できてしまったので、そこまで大変なことはなかったですね(笑)。どちらも大変ご好評いただいたので、勢いに乗って猫付きカンパニーも始めました。猫付きカンパニーはまだ1社だけですが、こちらもありがたいことに好感触のお話はものすごく多いです。
ただ、好感触のお話はいただくものの、ビル側の都合でできないことが大半です。管理側から「動物を入れないでください」と断られることももちろんありますし、大きな会社さんですと日中は良かったとしても、夜は空調が切れてしまったり猫が動くことでセキュリティが発動してしまったりするので、なかなか難しいです。そういう意味では小さい会社さんの小さいビルでやるのが理想ではあります。
——猫付きマンションなどで暮らしているネコちゃんたちの入れ替えはどのようにして行われているのでしょうか?
当施設が行っている猫付きマンションや猫付きシェアハウス、猫付きカンパニーは、大人猫の居場所を探すために里親募集中の猫を預けているので、卒業すればまた次の猫を預けます。譲渡については住人さんに預かり飼育をしていただいているので、住人さんとご相談のうえで決めています。(住人さんがそのままオーナー様としてネコちゃんを引き取るケースもよくあるそうです。)
もし猫に何かあってそこで暮らせない状態になった場合は、住人さんとご相談のうえでシェルターに連れてきたり、一時的なことであれば住人さんのほうで治療をお願いしたりもしています。いわゆるシニアやハンデが非常に強い猫(排泄補助が必要な猫)は大塚ケアシェルターと立川ケアシェルターで治療が必要になりますので、猫付きマンションや猫付きシェアハウス、猫付きカンパニーには、ある程度コンディションが整っている猫を預けています。
——2024年1月に発生した能登半島地震の支援についてお聞かせください。
1月1日に被災があってから何度も能登半島に訪問しています。ペットフードロス問題の解消でパートナー企業さんとメーカーさんからフードをいただいたり、安く買わせていただいたりしていた関係から、能登半島で地震が起きたときにはいち早く能登半島に10tトラックを向かわせることができました。
お店がすべて閉まっていて消耗品が手に入らない状況なので、そもそも支援物資を置く場所があるのか、支援物資を配ることができるのか、いろいろと工夫しなくてはいけないことがたくさんありましたが、現在までに10tトラックが2回、そして2tトラックが7回ほど被災地に物資を支援することができました。
また、当施設のバックヤード機能として、能登半島で所有権破棄になった猫を20頭ほど受け入れました。そもそも同行避難が難しく、置いていくしかない状況が多かったようです。被災していないボランティアさんが山を越えて支援物資や猫を引き取りに行かれることもあるそうですが、現在も相当大変な状況です。今後も引き続き当施設からも支援は行っていきます。
——活動を応援したいと思う場合、手軽にできる支援方法はありますか?
一番ライトなご支援方法は、YouTubeのパートナーシップをとっているのでShippoTVをご覧いただくことでしょうか。チャンネル登録をしていただいたり、継続的に見ていただいたり、お友達に広めていただくだけでも支援に繋がります。
ShippoTV
——保護猫活動をしようと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
もともと当施設へは別の仕事で来ていました。開放型シェルターの下がライブハウスになっているのですが、そこは私の会社が運営しています。このビルをお借りして、ライブハウスとボーカルスクールをやっている間に、自宅がシェルター状態になってしまいました。当時はたしか、犬2頭・猫がたくさん・狸1頭・アライグマ4頭と、計30頭を超えるくらいでしたが、それでもボーカルスクールとライブハウスをフルタイムで仕事しながら、意外と平気でやっていました。ただ、譲渡が進まないとそれ以上家に動物を入れてあげられない状態までいってしまったので、譲渡事業をやりながらどんどん救ってあげられて、金銭的にもできるような回る仕組みはないかと調べ始め、「できそうだ」と思ったので始めました。
また、根底には子供の頃にあった野犬狩りがあると思います。当時は犬が外にいるだけで首輪がついていても、飼い主さんが名前を呼んでいても、保健所に見つかったら全部捕まえて連れて行かれてしまい、処分直行でした。外でごはんをあげていた親子犬がいたのですが、目の前でその子たちが連れていかれてしまったので、そのときの状況がずっと心に残っているのだと思います。
——シェルターを運営していて楽しいことや悲しいことはありますか?
楽しいことも悲しいことも両方一緒で「譲渡が決まること」です。毎回お別れがあるので、譲渡が決まることが楽しい(嬉しい)ことであり悲しいことです。もちろん飼い主さんからお引き受けした猫には名前が付いていますが、基本的にはシェルターではあだ名だけにしています。
——最後に、今後同じく保護活動をしたいと思っている方に、なにから始めたらいいのかなどアドバイスはありますか?
なにから始めようかと考えるよりは、失敗も含めて一旦始めてしまった方が良いと思います。
ただ、自分が行動することによって動物の命が危うくなるようなことは決してあってはいけないことです。いくら猫のことが大好きだとしても、自分が猫に対して接したり尽くしたりすることが楽しい、嬉しいからそのようにすることと、猫が実際に助かる、楽になるということは異なります。自分がやることはどちらなのかとよく考えてから行動していただけたらなと思います。
あとは、数字を出すべきであると思います。誰よりも猫を愛していますなどという言葉ではなく、ご寄付などいただいたものに対してこのくらい実績を上げていますよとお知らせすることが大事だと思います。実績をあげることができれば評価してくださる方々がいます。そうすることでより多くの猫が助かると思います。
取材を終えて
山本様から貴重なお話をたくさんお伺いすることができ、保護猫活動について深く心に響くものがありました。保護施設は行き場のない動物たちにとってなくてはならない場所であり、新しいオーナー様との繋がりをサポートしてくれる温かい場所となっていました。また、全国で殺処分が年々減少傾向にあるのは、こうした動物の保護活動をしてくださる方々の存在が大きいでしょう。
現状を知り、支援することの大切さをより知ることができた取材でした。東京キャットガーディアン様、お忙しいところ取材にご協力いただき本当にありがとうございました。
今回の取材協力
NPO法人東京キャットガーディアン
代表 山本様