こんにちは、レティシアン専属獣医師のYです。
突然ですが皆様、「ワンちゃん・ネコちゃんの好物は?」と聞かれて何を思い浮かべますか?いつものフード? ジャーキーなどのおやつ? お肉やお魚でしょうか?
多頭飼育のご家庭では、ワンちゃん・ネコちゃん1頭ごとに食の好みが違うケースもあるでしょう。人間と同じようにワンちゃん・ネコちゃんも食の好みや好き嫌いに個人差(個体差)があり食いつきが違うのは、ペットオーナー様にとってはよく知られた情報かと思います。
それでは、ワンちゃん・ネコちゃんが食べ物の何を美味しいと感じるかご存じでしょうか?
今回のコラムでは、ワンちゃん・ネコちゃんが感じている「食べ物の美味しさ(嗜好性)」についてご紹介します。
目次
嗜好性(しこうせい)とは?
「嗜好性」は普段の生活ではあまり耳にしない言葉かと思いますが、簡単にいうと「美味しい」「美味しそうと感じる」ことを指します。
嗜好性は、匂いや味など五感をとおした刺激によって影響され、ワンちゃん・ネコちゃんの食いつきが良いことを「嗜好性が高い」、食いつきが悪いことを「嗜好性が低い」と表現します。
犬や猫の嗜好性に影響する6つの要因
① 匂い
「匂い」は、嗜好性を左右する最も重要な要素です。
ワンちゃん・ネコちゃんは人間のように見た目で「美味しそう」と判断することはほとんどなく、はじめに「匂い」でその食べ物が美味しそうかどうか判断します。
ワンちゃん・ネコちゃんは、匂いを感じ取る嗅覚器官が人間と比べて非常に発達しています。
匂いをキャッチする嗅覚上皮の面積
人間:約3〜4cm²
ワンちゃん:18〜150cm²
ネコちゃん:約21cm²
鼻の中で匂いを感じ取る「嗅覚上皮」という部分の面積が大きいほど、嗅覚が鋭いといわれており、人間とワンちゃん・ネコちゃんでは大きな差があります。
匂いのもととなる成分は「脂肪や油に溶けやすい」という性質をもっているので、ワンちゃん・ネコちゃんともに脂肪分の多い食べ物をより好む傾向があります。
② 味
もちろん、食べ物の「味」も嗜好性や食いつきに関わる重要な要素です。
ワンちゃん・ネコちゃんは香り・匂いでその食べ物を食べるかどうかを決めて、口に入ったときに感じる味によって食べ続けるかどうか判断します。
味覚は舌にある「味蕾」という細胞で感じ取っていますが、動物の種類ごとに味蕾の数も異なります。
人間:約7,000個
ワンちゃん:約1,700個
ネコちゃん:500個以下
つまり、ワンちゃんやネコちゃんにとって「味」も重要ですが、人間に比べるとその重要度は低いと考えられています。また、味の感じ方も動物によって大きな違いがあります。
・甘味
ワンちゃんは甘いものを好むのに対して、ネコちゃんは甘みを感じることが出来ないと考えられています。
・酸味
酸味はワンちゃん・ネコちゃんともに感じることができ、適度な酸味は嗜好性を高めるといわれています。またネコちゃんはカルボン酸(酢酸)など特定の酸に対しては強い拒絶反応を示すとされます。
・塩味
お肉には適度な塩分が含まれているので、ワンちゃん・ネコちゃんともに適度な塩味を好みます。しかし塩分が多すぎる食事は好まない傾向にあります。
・苦味
ワンちゃん・ネコちゃんともに苦味のある食べ物を避ける傾向にあり、これは「苦味=毒」と本能的に認識しているからだと考えられています(※人間の子供がピーマンなど苦味のある野菜が嫌いなのも同じ理由とされています)。
③ タンパク質
ワンちゃんは肉食傾向の雑食動物で、ネコちゃんは完全肉食動物です。
そのため、ともにタンパク質の割合が多い食事を好む傾向にありますが、雑食動物のワンちゃんは全エネルギーの25~35%がタンパク質由来の食事を最も好み、ネコちゃんは全エネルギーの40~80%の高タンパク食でも好んで食べるといわれています。
また、食事中のタンパク質の割合だけでなく、その原材料も嗜好性に影響します。
ワンちゃんは、食事に含まれるタンパク質の割合が全く同じでも、穀物主体の食事よりもお肉主体の食事を選ぶ傾向があるといわれています。
また、ネコちゃんは大豆のタンパク質は食べるのに対し、牛乳などに含まれるカゼインというタンパク質はあまり好まないという研究結果もあります。
こうしたタンパク源の好き嫌いは、ワンちゃん・ネコちゃんの育った環境や子犬・子猫の間に食べたものにも影響を受けるといわれていて、人間の食生活が異なる国ではワンちゃん・ネコちゃんの食べ物の好みも変わると考えられています。
そのため、肉食文化の強いアメリカではネコちゃんが羊や馬のお肉を好むという調査結果があるのに対し、魚食文化の強い日本ではお魚が好きなネコちゃんが多くなっています。
④ アミノ酸
タンパク質の構成要素であるアミノ酸の種類によっても、ワンちゃん・ネコちゃんの嗜好性が変わることが分かっています。
特に完全肉食動物のネコちゃんはアミノ酸にとても敏感で、たった1つのアミノ酸でも味覚センサー(味蕾)が反応するといわれています。
犬と猫に好まれるアミノ酸
アラニン・プロリン・リジン・ヒスチジン・ロイシンなど
ワンちゃん・ネコちゃんともに、甘味を感じるアミノ酸を好み、苦味を感じるアミノ酸は避ける傾向があるようです。
⑤ 食感
食べ物の歯ざわり、舌ざわり、口当たりといった食感も、嗜好性に影響を与えます。
特にネコちゃんは食感が嗜好性に大きく影響するとされ、中にはカリカリ(ドライフード)しか食べなかったりウェットフードしか食べないというような好き嫌いをする子もいます。
食感は、食べ物に含まれる水分・脂肪分の割合によって大きく変化します。
一般的に、ネコちゃんの祖先が主食としていたネズミの体(脂肪分10%・水分60~70%程度)に近い食感の食べ物を好むとされています。
その他にもネコちゃんは、濃厚な液体(薄めたミルクよりも全乳)を好み、粉っぽい食感や乾燥した食べ物はあまり好まないことなども知られています。
⑥ 温度
食べ物の温度も嗜好性に影響を与えます。特にネコちゃんにとっては嗜好性を決める大事な要素になっているようです。
ネコちゃんはもともと小型動物を捕まえてその場で食べる習性があるので、体温に近い温度の温かい食事を好む傾向があります。それに対してワンちゃんやオオカミは「食べきれない食事を穴に埋めて保管する」という習性があるため、冷たいものでも好んで食べる傾向があります。
ネコちゃんがあまりごはんを食べてくれないときは、食事を人肌くらいの温度まで温めてあげると食べてくれる可能性が高まるかもしれません。
子どもの頃に食べたものが食の好みに影響する!?
ワンちゃん・ネコちゃんの食の好みはいつ決まるのでしょうか?
実は、人間の好き嫌い・食わず嫌いと同じように、ワンちゃん・ネコちゃんでも子供の頃(離乳期)に食べたものが、成犬・成猫になってからの食の好みに影響するといわれています。
子犬・子猫のときに色々な味や食感の食べ物を経験させてあげると食の好みの幅が広く、特定のフードだけを与えていると嗜好性や食の好みの幅が狭くなると考えられています。
子犬・子猫のうちからドライ・ウェットを問わず色々なフードを与えて慣れさせてあげると、成犬・成猫になってからの好き嫌いが少なくなる…かもしれません。
まとめ
今回は犬と猫の「嗜好性」についてご紹介しました。まだ解明されていない点も多いですが、嗜好性を理解し、それに合わせた食事を提供することで、ペットオーナー様は愛犬や愛猫の健康と幸福を保つことができます。食いつきが良くバランスの取れた食事を意識して、大切な家族との幸せな時間を守っていきましょう。