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《獣医師コラム》“無駄”な吠えは存在しない!? ワンちゃんが無駄吠えしやすい6つのシチュエーションと無駄吠え対策 後編

こんにちは、レティシアン専属獣医師のKです。
前回のコラムでは、ワンちゃんが吠える理由や吠え行動への対策の基本、吠え行動が生じやすい3つのシチュエーションとその理由・対策について解説しました。

「吠える」という行動自体はワンちゃんにとって正常なもので、もともとは家族とコミュニケーションをとったり人間との共同生活を送ったりするために必要な行動だったのですが、現代ではご近所の方やオーナー様同士のトラブルの原因となる「問題行動」とされてしまうことが増えています。

「無駄吠え」という言葉は、人間から見て望ましくないタイミングでワンちゃんが吠えてしまうため生まれたものです。しかし、ワンちゃんの吠え行動には必ず理由があるので、意味もなく「無駄に」吠えるということは基本的にありません。

ワンちゃんの目線に立って、「何に対して吠えているのか」「どのような状況で吠えているのか」「なぜ吠えているのか」を考えて対処してあげることで、吠え行動を減らすことができます。

後編となる今回は、

【4】お留守番中の無駄吠え対策
【5】食事中の無駄吠え対策
【6】遊びに誘う・遊んでいる最中の無駄吠え対策

について解説していきます。

【4】お留守番中の無駄吠え対策

お留守番の際に吠える場合、「分離不安」が原因となっている可能性が高いです。

「分離不安」とは、オーナー様と離れることに対してワンちゃんが強い不安を覚えてしまう状態のこと。一人でいることに慣れていないワンちゃんや、お留守番中の恐怖体験(地震・雷)などがトラウマになってしまったワンちゃんに生じることが多いです。

分離不安のワンちゃんの場合、吠え行動の前に下記のような不安兆候を示すことが多いため、ペットカメラなどを活用して愛犬が吠える前後の状況を確認してみましょう。
 

ワンちゃんの不安兆候

・落ち着きがなくそわそわする
・排泄やマーキング行動の増加
・はぁはぁと呼吸する
・しきりに自分の体を舐める(過剰なグルーミング)
・よだれを垂らす
・周りのものを破壊する

 

【対策1】分離不安を感じにくくするための環境づくり

分離不安のワンちゃんの場合、オーナー様と離れるだけで強い不安を覚えてしまい、お留守番の時間が長くなればなるほど吠え行動は発現しやすくなります。

まずは、できる限りワンちゃんが一人でお留守番する時間をなくすか、短くできないかを検討してみましょう。
 

例)
・外出時間をできるだけ短くする
・長時間の外出の場合、途中で一度帰宅する
・自宅でお仕事をする
・外出中は、ご家族やペットシッターの方にお世話をしてもらう

 
やむを得ずお留守番が必要な場合は、できるだけ分離不安を感じにくい環境づくりを意識してあげましょう。
 

例)
・外からの音や光が入らないように、シャッターやカーテンを閉めておく
・お部屋の電気やラジオ・テレビをつけっぱなしにして、オーナー様がおうちにいる状態に近づけてあげる

 
お留守番の間、愛犬にぐっすり眠っていてもらえれば吠え行動は発現しないので、事前に十分なお散歩・遊びをして発散させて排泄も済ませた状態でお留守番を開始してあげると吠え行動は出にくくなります。

しかし、オーナー様が慌ただしく準備をしてしまうと「これからお留守番が始まる」と気づいて不安を感じてしまうので、オーナー様の外出準備はお散歩・遊びよりも前に済ませておき、愛犬が落ち着いている間に静かにさっと出かけるようにしましょう。

【対策2】お留守番に慣れさせるための「模擬外出」

上記の工夫を行っても、「お留守番=不安なもの」という愛犬の学習を和らげてあげないと分離不安の根本的な解決はできません。
「模擬外出」というトレーニングを行って、お留守番に少しずつ慣らしてあげましょう。

(1)隣の部屋への「小さな外出」

重度の分離不安のワンちゃんの場合、オーナー様が隣の部屋へ行ったりお風呂やトイレに行ったりするだけでも不安を感じてしまうことがあります。その場合は、まず隣の部屋への「小さな外出」から慣れさせてあげましょう。

愛犬と離れる際に、合図となる言葉をかけて、大好きなおやつやフード・おやつを入れられるおもちゃなどを与えます。愛犬がおやつに夢中になっている間に静かに離れて、愛犬が不安を感じ始める前に戻ります。

初めはドアを開けっぱなしの状態にして隣の部屋へ移動するようにして、慣れてきたらドアを閉めてオーナー様の姿が見えないようにし、徐々に愛犬と離れる距離・時間を伸ばしていくようにして慣れさせてあげましょう。

(2)模擬外出

おうちの中での外出に慣れたら、オーナー様が実際に外出するシチュエーションに徐々に近づけていきます。
多くの場合、オーナー様が外出の準備をしている段階から不安徴候が現れるので、まずは愛犬の不安のきっかけになる行動を洗い出してみましょう。
 

不安のきっかけになるオーナー様の行動の例

・着替える
・メイクをする
・家や車のカギを手に取る
・「行ってきます」などの声をかける
・靴を履く
・玄関のドアを開ける
・玄関のドアを閉めてオーナー様の姿が見えなくなる
・車のエンジンをかける
など

 
おやつなどを与えながらこれらの行動を一つずつ行って慣らしていき、不安を示さなくなったらこれらの行動を組み合わせて、少しずつ実際のお留守番の状況に近づけていきます。

【対策3】お薬・サプリメントの併用

分離不安の程度によっては抗不安薬などをお薬の併用が必要になる場合があります。
吠え行動やその他不安兆候が激しい場合は、かかりつけの動物病院や行動診療科のある動物病院へご相談ください。

【5】食事中の無駄吠え対策

ご家族の食事中に吠えることが多い場合は、「食べ物のおすそ分けを要求する」ために吠えている可能性が高いです。

吠え続けるワンちゃんに対してオーナー様が根負けして食べ物を与えてしまうと「吠え続ければ食べ物をくれる」と学習し、吠え行動がより強化されてしまいます。

食べ物のおすそ分けを要求する吠え行動の場合、ワンちゃんや人間の食事のとりかたを工夫することで軽減できることがあります。

【対策1】人間の食事よりも先に愛犬に食事を与える

お腹が空いているときの方がワンちゃんの要求は強くなるため、人間の食事よりも先に愛犬に食事を与えることをおすすめします。

また、床に落ちている食べ物などもワンちゃんにとっては「おすそ分け」と認識されてしまうので、人間の食事は愛犬と別の部屋でとるようにし、食事中は愛犬がその部屋の中に入れないようにしましょう。

【対策2】人間の食事中も愛犬がゆっくり食事を続けていられるように与え方を工夫する

「人間の食事よりも先に愛犬に食事を与える」を行っても、早食いしてしまうワンちゃんの場合はすぐに自分のごはんを食べ終えておすそ分けを要求し始めてしまうことがあります。

そのような場合は、フードを詰められるボールやスローフィーダーなどを使って、人間の食事の間も愛犬がゆっくりと食事をとれるように工夫してあげましょう。

【対策3】吠えても人間の食べ物を “絶対に” 与えない

愛犬に要求されても、絶対に食べ物のおすそ分けを行わずに無視を続けていけば、「吠えればおすそ分けをもらえる」という学習を、新たに「吠えてもおすそ分けをもらえない/良いことがない」という学習で上書きすることができます。
 

※注意※

この学習の上書きの過程で吠え行動が一時的に悪化することがあるのでご注意ください。これは、ワンちゃんが「吠え足りないからおすそ分けをくれないんだ」と考えることから生じる正常な反応なので、どれだけ吠えても食べ物を与えないように徹底しましょう。

【対策4】吠える以外の行動に置き換えるようトレーニングをする

「伏せ」や「お座り」などの指示を出し、吠えずに従ってくれたらワンちゃん用のおやつなどを与えるようにし、吠え行動を他の行動に置き換えるトレーニングをしていきましょう。吠えてしまった場合はおやつを与えず、静かに指示に従ってくれたときだけおやつを与えるようにします。

【6】遊びに誘う・遊んでいる最中の無駄吠え行動

オーナー様や他のワンちゃんを遊びに誘おうとして吠えたり、遊んでいる最中に吠え行動が激しくなったりすることがあります。

これは、「吠えたら一緒に遊んでくれた」「吠えたらもっと激しく遊んでくれた」という過去の成功体験からの学習によるものの可能性が高いです。

(1)遊びに誘うための吠え

愛犬が遊びに誘おうと吠えているときに、オーナー様がその要求に応えて遊んでしまうと「吠えたら一緒に遊んでくれる」と学習してしまいます。

次第に吠え行動の対象がオーナー様だけでなく他の人間やワンちゃんにも広がっていくことで、ドッグランなどで他のワンちゃんに対しても吠えるようになってしまいます。

本人としては遊びたくて吠えているだけでも、相手のワンちゃんが怖がってしまって思わぬトラブルにつながる可能性があるので、多くのワンちゃんが集まる場所や他のワンちゃんとの距離が近くなるような場所へ行く際は、吠えずに落ち着いて行動できるように事前にトレーニングをしておく必要があります。

(2)遊んでいる最中の吠え

遊びの最中に興奮がピークに達して吠えてしまうことがあります。
このときに、オーナー様が愛犬との遊びを中断せずに続けたり、愛犬のテンションに合わせてさらに激しく遊んでしまったりすることで、「吠えればもっといっぱい遊んでくれる」「吠えればもっと激しく遊んでくれる」と学習し、吠え行動が強化されてしまいます。

【対策1】愛犬の要求に応じないようにして、「吠えれば遊んでくれる」という学習をリセットする

(1)オーナー様を遊びに誘うために吠えてしまう場合

遊びに誘うために愛犬が吠え始めたら、静かにその場を離れて愛犬を一人にしましょう。
遊びの最中に愛犬が吠え始めた場合は、いったん遊びを中断してその場から離れましょう。
愛犬が吠えるのをやめて静かに待てるようになったら、よく褒めてから遊んであげるようにします。

これを続けることで、少しずつ「吠えれば遊んでくれる」という学習がリセットされ、「吠えたら誰も構ってくれなくなる」と再学習してくれます。

一日のなかで愛犬と遊ぶ時間帯を決めて、毎日同じ時間にこの対策を習慣として実行すると、より効果的に学習してくれます。
 

※注意※

学習のリセットがおこなわれる途中で、一時的に吠え行動が悪化することがあります。これは、「遊んでくれないのは、吠えが足りないからだ」と愛犬が考えることから生じる正常な反応です。
ここでオーナー様が根負けしてしまうと「長く吠え続ければ遊んでくれる」と学習し、吠え行動がより悪化してしまう可能性があります。
また、必ずご家族全員が愛犬に対して同じようにふるまうようにしてください。人によって対応が変わってしまうと、愛犬が混乱してしまい再学習がうまくいきません。

 

(2)ドッグランで他のワンちゃんを遊びに誘うために吠えてしまう場合

ドッグランに到着してもすぐに中には入らず、リードをつけたままドッグランの周りをゆっくり歩いて、愛犬を落ち着かせてあげましょう。

愛犬が吠えずに落ち着いていられたらドッグランの中に入り、リードをつけたまま他のワンちゃんとは距離を取った状態でドッグラン内を歩き、その後でゆっくりと他のワンちゃんに近づくようにしましょう。

愛犬が吠えてしまったら、相手のワンちゃんから離れるか、ドッグランの外へ連れていきましょう。

これを繰り返すことで「吠えると他のワンちゃんと遊べなくなる」と学習してくれるようになります。

【対策2】吠え行動以外の行動を「遊びの合図」に置き換える

(1)オーナー様を遊びに誘うために吠えてしまう場合

遊びの前に「お座り」「待て」などの指示を出し、吠えずに指示に従ってくれたらよく褒めながらおやつなどのご褒美を与え、その後で遊んであげるようにしましょう。

遊んでいる最中に吠えてしまったら遊びを中断し、愛犬を一人にします。
愛犬が吠えるのをやめて静かに落ち着いて待てるようになったら、遊びを再開します。

これを続けることで、「お座り」「待て」が遊びを始める合図になり、吠え行動が少なくなっていきます。

(2)ドッグランで他のワンちゃんを遊びに誘うために吠えてしまう場合

他のワンちゃんから十分に距離をあけた状態で「お座り」「待て」の指示を出し、吠えずに指示に従えた場合だけ、よく褒めながらゆっくりと近づいて交流させるようにしましょう。

吠えてしまったら相手のワンちゃんから離れるかドッグランの外に連れていきましょう。
吠えずに落ち着いていられる距離で再度「お座り」「待て」の指示を出し、吠えずに指示に従えたら相手のワンちゃんとの距離を少しずつ詰めていきます。

これを続けることで、「お座り」「待て」が他のワンちゃんと交流する合図になり、吠え行動が少なくなっていきます。
 

※注意※

ドッグランなど多くのワンちゃんがいる環境では愛犬が興奮しやすく、落ち着いて行動をとるのが難しくなります。
普段のお散歩でも他のワンちゃんに吠えることが多い場合は、ドッグランデビューをする前に、他のワンちゃんがいても落ち着いて行動できるようにトレーニングしておきましょう。
具体的なトレーニング内容については、前回のコラム「【2】散歩中の無駄吠え対策」をご覧ください。

まとめ

前回から2回にわたり、ワンちゃんの無駄吠えが起こりやすいシチュエーションや、各シチュエーションでの無駄吠え対策について解説させていただきました。

ご紹介していない状況でワンちゃんが吠えてしまう場合でも、「何で吠えているのだろう?」と考えながら状況を分析してあげると、対処法が見えてくるかもしれません。

また、動物病院で獣医師様にご相談いただいて吠え行動を減らすためのトレーニングプランを一緒に作ってもらっても良いでしょう。

愛犬の吠え行動について動物病院へ相談される場合は、愛犬が無駄吠えするときの状況を整理したメモや吠える様子を撮影した動画などを持参するとより的確なアドバイスが受けられます。ぜひ実践してみてください。

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