こんにちは、レティシアン専属獣医師のKです。
いよいよ夏本番を迎え、蒸し暑い日が続きますね。
汗をかいて皮膚が蒸れやすくなるこの時期には、べたつき・かぶれなどお肌のトラブルが気になるという方も多いのではないかと思います。
実は、人間だけでなくワンちゃんたちも夏になると皮膚トラブルが増えやすいということをご存じでしょうか?
ワンちゃんの皮膚トラブルは、色々な病気が複合して起こることが多いのですが、そのなかでも症状が長期化しやすく厄介なのが「アレルギー性皮膚炎」です。
アレルギー性皮膚炎は原因を特定するのがなかなか難しく、「いつ頃から症状が出ているのか」「どこに症状が出ているのか」といったオーナー様からの情報が、動物病院で診断をするうえでとても役立ちます。
今回は、そんなワンちゃんのアレルギー性皮膚炎の種類や特徴・対策について解説します。
目次
アレルギー性皮膚炎とは
人間と同じように、ワンちゃんの体にも体内に侵入した異物から体を守る「免疫」というシステムがあります。
免疫は本来、細菌・ウイルスなどによる感染症の発症や悪化を防ぐために必要なシステムなのですが、まれに体に害のない物質に対して免疫システムが過剰反応を起こしてしまうことがあり、これを「アレルギー」と呼びます。
私たち人間が毎年悩まされている花粉症も、空気中に舞っているスギなどの植物の花粉に対するアレルギー反応です。
ワンちゃんのアレルギー反応では、かゆみ・湿疹といった皮膚の症状が出るのが一般的で、皮膚炎を伴うアレルギー反応を総称して「アレルギー性皮膚炎」と呼びます。
アレルギー性皮膚炎の種類
アレルギー性皮膚炎は、その原因によって様々な病名がついているのですが、そのなかでも特に多いものがこの3つです。
・ノミアレルギー性皮膚炎
・犬アトピー性皮膚炎
・食物アレルギー
アレルギー性皮膚炎の症状
主にかゆみや皮膚の赤み、湿疹のような症状が現れます。症状が長引くと、毛が抜けたり、皮膚が固く厚くなったり、色素が沈着して皮膚が黒っぽくなったりすることがあります。
アレルゲンカレンダー
アレルギーの原因(アレルゲン)の種類によって、それぞれ症状が出やすい時期があります。
アレルゲンの量がピークとなり、アレルギー反応が出やすい時期は下記のとおりです。
※地域や気候によって変動します。
虫
・ハウスダストマイト(ヤケヒョウダニ・コナヒョウダニ):6~9月
・ノミ:4~10月
・蚊:5~8月
カビ類:7~10月
植物
・ヨモギ:9~10月
・オオブタクサ:8~10月
・タンポポ:5~9月
・カモガヤ:5~7月
・ハルガヤ:5~9月
・ホソムギ:6~10月
・ギョウギシバ:8~9月
・ニホンスギ:3~5月
・シラカンバ:4~6月
毎年特定の時期にだけかゆみや湿疹などの皮膚症状が出る場合は、これらのような季節性のあるアレルゲンが関与している可能性があります。
また、ダニ・ノミ・カビ類などに関しては、おうちの中の温度や湿度によって季節を問わず発生する可能性があります。
ノミアレルギー性皮膚炎
ノミに血を吸われると、皮膚の中にノミの唾液が侵入します。
この唾液に対して免疫系が過剰に反応してしまって起こる皮膚炎を「ノミアレルギー性皮膚炎」と呼びます。
ノミは、気温20~30℃・湿度70%以下という環境で特に活発になるため、ノミアレルギー性皮膚炎の症状は夏~晩秋の時期に悪化することが多いです。
しかし、冬でも暖かい状態が維持されているおうちの中では一年中ノミが活発になってしまうため、ノミ対策を行わないとノミアレルギー性皮膚炎が季節を問わず発症してしまう可能性があります。
アレルギー反応を伴わないノミ寄生(虫刺され)の場合は、ノミに刺された場所だけにかゆみや炎症が出るのに対し、ノミアレルギー性皮膚炎では、ノミに刺された場所以外にも広範囲に強いかゆみや炎症が出るのが特徴です。
何の前触れもなく突然強いかゆみがでたり、お散歩・旅行などの後に急に強くかゆがる様子が見られたりする場合は、ノミアレルギー性皮膚炎の可能性が考えられます。
明らかに様子がおかしい場合は、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。
症状が出やすい部位
・背中~腰
・お尻まわり
・後ろ足
など
対策
ノミアレルギー性皮膚炎は、ノミが1匹でも寄生していると発症する可能性があるため、お薬を使ってすべてのノミを駆除しないと完治できません。また、一度症状が治まったとしても新たにノミが寄生すると再発してしまうため、定期的にお薬を使ってノミの寄生を予防する必要があります。
ノミはベッドや棚といった家具のすき間や毛足の長いカーペットなどで繁殖しやすいため、掃除機を使って毎日しっかりと掃除をすることも重要です。
また、お散歩の際に草むらをとおるのを避けたり、他の動物との接触を避けたりすることも、ノミ対策になります。
犬アトピー性皮膚炎
遺伝が関与して、主に環境中のアレルゲンに対するアレルギー反応でかゆみ・炎症などの症状が出るワンちゃんの皮膚の病気のことを「犬アトピー性皮膚炎」と呼びます。
一般的に、植物の花粉・カビ・ハウスダストに含まれるダニなどが原因となり、これらのアレルゲンが皮膚に接触することでアレルギー反応を引き起こします。
これらの原因物質は特定の時期に増えやすい傾向があり、犬アトピー性皮膚炎の症状もその時期に悪化しやすい傾向があります。毎年同じ時期に皮膚炎が出て、その時期を過ぎると症状が軽減するというような場合は、犬アトピー性皮膚炎の可能性が考えられます。
発症・悪化の原因
・遺伝的な要因
・環境中のアレルゲン(植物の花粉・カビ・ハウスダスト中のダニなど)
・皮膚バリア機能の低下
・皮膚や腸内での細菌バランスの乱れ
・免疫機能の低下
発生が多い犬種
・ゴールデン・レトリーバー
・ラブラドール・レトリーバー
・フレンチ・ブルドッグ
・柴犬
・シー・ズー
症状が出やすい部位
・顔(特に口の周りや目の周り)
・耳
・下腹部~お尻まわり
・脇の下
・手足の先、指の間
など
対策
犬アトピー性皮膚炎は遺伝が関与しているため根本的な治療が難しく、再発することも多い病気です。このため、かゆみや皮膚炎といった症状をできるだけ出にくくする・重症化させないことを目的とした対策が必要となります。
花粉
・花粉の飛散が予想される時間・場所を避けてお散歩をする
・オーナー様が帰宅した時に玄関前で上着をはらって、おうちの中に花粉を持ち込まないようにする
カビ類
・換気をしたり、除湿器や空気清浄機を使って、おうちの中に湿気がこもらないようにして空気をキレイに保つ
ハウスダスト中のダニ
・寝床などのワンちゃんが長時間いる場所に設置するカーペット、クッションなどの数を増やし過ぎないようにする
・カーペット、畳、布団、クッションなどを定期的に清掃・交換するようにする
・低刺激性シャンプーを使用して、皮膚を清潔に保つ
・保湿剤を使用して、皮膚の乾燥を防ぐ
食物アレルギー
食べ物に含まれる成分(主にタンパク質)に対するアレルギー反応でかゆみや炎症を引き起こす病気を「食物アレルギー」と呼びます。
食物アレルギーのメカニズムはまだ解明されていない部分が多いのですが、腸で吸収されたタンパク質が血管をとおって皮膚に運ばれることで皮膚炎を起こすと考えられています。
ノミアレルギー性皮膚炎や犬アトピー性皮膚炎は皮膚に直接アレルゲンが触れることで発症するのに対し、食物アレルギーでは、アレルゲンが腸で吸収されてから皮膚に運ばれます。このため皮膚症状だけでなく、軟便・下痢・嘔吐といった消化器症状を伴う(10~15%程度)ことがあるのが食物アレルギーの特徴の一つです。
アレルギー性皮膚炎を疑う症状があって、1日3回以上排便する場合は、食物アレルギーの可能性があります。
皮膚症状や症状の発生部位は犬アトピー性皮膚炎とよく似ているため区別がつきにくく、食物アレルギーと犬アトピー性皮膚炎が併発することも多いので、これらの病気が疑わしい症状がみられる場合は、動物病院を受診し適切な対策を行ってあげる必要があります。
発症・悪化の原因
・食事中のアレルゲン(主にタンパク質)
・皮膚バリア機能の低下
・皮膚や腸内での細菌バランスの乱れ
・免疫機能の低下
症状が出やすい部位
・顔(特に口の周りや目の周り)・顔(特に口の周りや目の周り)
・耳
・下腹部~お尻まわり
・背中~腰
・脇の下
・手足の先、指の先
など
発生が多い犬種
疫学的には食物アレルギーの発生が多い犬種は特定されていませんが、犬アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは併発することが多いため、犬アトピー性皮膚炎の発生が多い犬種では食物アレルギーの発生が多いとされています。
主なアレルゲン
日本では、以下のタンパク源が食物アレルギーの発生が多い「主要アレルゲン」として知られています。
また、食物アレルギーのワンちゃんは複数のタンパク源に対してアレルギー反応を起こすことが多く、平均して1頭あたり2.4個のタンパク源に対して反応するといわれています。
・牛肉
・豚肉
・鶏肉
・卵
・牛乳
・小麦
・トウモロコシ
・大豆
対策
「アレルゲンとなっている食べ物を避けること」が食物アレルギーの唯一の対策です。
人間の食物アレルギーと同じように、ワンちゃんの食物アレルギーも1頭1頭アレルゲンとなっている食材が異なるため、「どの子でもアレルギーが起きないフード」はありません。動物病院の獣医師様と相談しながら、その子その子の体質に合ったフードを探してあげましょう。
食物アレルギー対策におすすめのフード
①新奇タンパク源を使用したフード
今までに食べたことのないタンパク源を「新奇タンパク」と呼びます。
理論上、今までに食べたことのないタンパク源に対しては免疫が作られていないため、アレルギー反応も起きないと考えられています。
愛犬のアレルゲン食材が特定できていない場合は、今までに食べたことのないタンパク源で作られたフードに切り替えてあげると安心でしょう。
②加水分解タンパク食
タンパク質が体に入る前に、より小さな構造であるペプチドやアミノ酸に分解しておくことで、体がアレルゲンと認識しにくくなるといわれています。
加水分解という技術を使ってタンパク質を分解し、アレルギーリスクを低減した食事を「加水分解タンパク食」と呼びます。
しかし、加水分解処置をしている食事を与えても、アレルギーに関与している免疫システムの種類によってはアレルギー症状が出てしまう可能性があります。加水分解食であっても、アレルゲンとなっているタンパク源は避けるようにすることをおすすめします。
アレルギーの「交差反応」について
今まで食べたことのない新奇タンパク源であっても、アレルゲンとなっているタンパク質と構造が似ているものに対しては、まれにアレルギー反応が出てしまうことがあり、これをアレルギーの「交差反応」と呼びます。
遺伝的に似ている動物同士・植物同士ではタンパク質の構造が似ていて、交差反応が起こることも多いとされています。
食物アレルギー対策としてフードを切り替える際は、アレルゲンとなっているタンパク源のみでなく、そのタンパク源と交差反応を起こしやすい食材も避けてあげることをおすすめします。
まとめ
今回はワンちゃんのアレルギー性皮膚炎で特に発生の多い「ノミアレルギー性皮膚炎」「犬アトピー性皮膚炎」「食物アレルギー」について解説させていただきました。
ワンちゃんの皮膚病はこれらの病気に加えて細菌・真菌の皮膚感染症や外部寄生虫の感染など、複数の病気が複合していることが多いため、しっかりと原因を解明して適切な治療を行う必要があります。
「もしかして、うちの子アレルギーかも?」と感じた場合は、動物病院を受診して獣医師様に相談するようにしましょう。