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《獣医師コラム》これから子犬・子猫を飼う方へ 前編「新しい家族を迎える前に知っておきたい基礎知識」

こんにちは、レティシアン専属獣医師のKです。

新年度が始まる4月は、新しい職場や学校など、これまでとは違った環境での出会いも多く、胸が躍る季節ですね。このタイミングに合わせて、犬や猫という新しい家族を迎えることを検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回のコラムテーマは「これから子犬・子猫を飼う方へ」です。
新しく犬や猫を迎えるにあたり、注意すべきポイントや知っておいてほしい情報を、以下の3つのステップに分けて、獣医師の視点から解説いたします。

【1】子犬や子猫がおうちに来る前に
【2】子犬や子猫が来たら
【3】子犬や子猫が少し大きくなったら

なお、今回の内容で触れる「猫」とは、飼い主のいない「野良猫」ではありません。
お迎えする子猫が保護猫であれば、こちらのコラムをご参照ください。
《獣医師コラム》【野良猫を保護したら?】お迎えのときの注意点、先住猫との関係など

【1】子犬や子猫がおうちに来る前に

犬や猫をおうちに迎えてからは、新しいことの連続です。きっと毎日が嵐のように過ぎていくことでしょう。何らかのトラブルが起きても慌てることがないよう、事前に心構えをして万全の準備を整えておきましょう。

心構え「最期まで飼えますか?」 終生飼養とは

終生(しゅうせい)飼養(しよう)」という言葉をご存じでしょうか?
令和元年に改正された「動物愛護管理法」において、この「終生飼養」、
つまり「動物がその命を終えるまで適正に飼養すること」が動物の所有者の責務として明記されました。
参照:動物の愛護及び管理に関する法律が改正されました

新しくあなたのおうちにやってきた犬や猫にとって、オーナー様は「唯一の家族」です。
お留守番が多い生活は、寂しさや退屈さを感じさせるだけでなく、犬や猫が本来持つ行動ニーズを満たせないため、大きなストレスにつながります。このストレスは、さまざまな病気や問題行動を引き起こす原因にもなります。たとえ忙しい日々の中でも、心身の健康を守るために犬や猫と触れ合う時間をしっかり確保する必要があります。

一般社団法人ペットフード協会が発表した2024年の最新データによると、犬の平均寿命は14.90歳猫の平均寿命は15.92歳とされています。子犬や子猫を迎えた場合、10年以上も一緒に暮らすことが予想されるため、長期的な視点で飼育環境を整え、責任を持ってお世話をする必要があります。

また犬を1年間飼うために必要な費用は、20万円前後が目安です。特に大型犬の場合、年間50万円を超えることもあります。さらに、犬を飼う間は毎日、朝と夕方の2回散歩に連れて行く必要があることも忘れてはいけません。
猫の場合は、1年間に必要な費用は10万円前後が一般的です。中には20歳を超えて長生きする猫もいます。

このように、犬や猫を迎える際には、これから10年、20年といった長い期間にわたって、時間と費用を捧げる覚悟があるかを冷静に考える必要があります。また犬や猫の目線で改めてご自身の生活を見直し、「うちの子になることで、この子の生活はより幸せになるだろうか?」と改めてじっくり考えてみてください。
よく考えた結果、「生涯にわたって責任を持って飼える」、つまり終生飼養ができると判断できたなら、さっそく準備を進めましょう。

事前準備「おうちの環境を整える」

犬や猫を迎える際には、感染症や熱中症、交通事故といったリスクを防ぐための環境作りが重要です。
犬の飼い方は、かつては外に小屋を置いて外飼いすることが一般的でしたが、現在では散歩や庭遊びなどの時間以外は家の中で過ごさせる「室内飼い」が犬のサイズを問わず主流になっています。
また、猫に関しては、交通事故や他の猫とのケンカによるケガのリスクを避けるためにも、おうちと外を自由に行き来させない「完全室内飼い」が推奨されています。
室内の環境作りは、犬や猫の安全と健康を守るための大切な基盤です。犬や猫を迎える前に、過ごしやすい環境に整えましょう。

【犬・猫共通】

ごはんの準備

健康な生活は、美味しいごはんから始まります。特に成長期の子犬や子猫にとって、高タンパクで栄養価の高いごはんは健やかな体作りに欠かせません。「子犬・子猫用」や「全年齢対象」のフードなど、適切な栄養バランスに配慮されたものを選んであげましょう。
また、AAFCO(米国飼料検査官協会)FEDIAF(欧州ペットフード工業会連合)といった信頼できる機関の基準を満たしたフードを選ぶと、より安心です。
さらに、犬や猫の食の好みは、子供の頃に食べたものが成犬・成猫になってからの嗜好に影響を与えると言われています。人間の好き嫌いや食わず嫌いと同じように、子犬・子猫の時期にさまざまな味や食感のフードを経験させることで、食の好みの幅を広げることができます。

犬や猫の食の好み(嗜好性)について詳しく知りたい方は、以下のコラムをご参照ください。
《獣医師コラム》犬と猫の「嗜好性」について─好き嫌い・食の好みはどうやって生まれるのか?

トイレの準備

人間の赤ちゃんと同じで、犬や猫もトイレの場所や使い方を勝手に覚えてはくれません。オーナー様が一緒にトイレトレーニングをして教えてあげる必要があります。
トイレトレーニングは、お迎え直後から始めるのが効果的です。そのため、事前にトイレを準備しておきましょう。特に、複数の猫を飼う場合は、頭数+1のトイレを用意するのが理想です。

トイレトレーニングの詳細については、以下のコラムをご参照ください。
《獣医師コラム》【愛犬・愛猫のトイレ問題】~トイレトレーニングについて~
※ペットショップやブリーダー様の元ですでにトイレトレーニングを行っている場合は、同じグッズを使ってあげると新しい環境でもスムーズにトイレを覚えてくれる可能性が高いです。

部屋の片付け

好奇心旺盛な子犬や子猫は、新しい環境に置かれると、周囲の物を手当たり次第に嗅いだり、舐めたり、口に入れたりして探索します。これは犬や猫の本能による自然な行動であり、完全にやめさせることはできません。
このため、「誤食やいたずらをしないようにしつける」のではなく、最初から「誤食やいたずらを物理的に行えない」環境を作ることが大切です。子犬や子猫が安心して過ごせる部屋作りを目指しましょう。

モノを減らす
部屋にモノが多いと、怪我やトラブルのリスクが高まります。犬や猫が誤ってモノを飲み込んでしまうリスクを減らすためにも、整理整頓された部屋を用意しましょう。

植物を置かない
植物の中には、人間には無害でも犬や猫にとって有害なものが多く存在します。
ユリ、チューリップ、ヒヤシンスなどのユリ科の植物は食べてしまったときの重症度も高く、特に注意が必要です。
また植物の種類によって【花びら】【葉】【根】【茎】など、有毒な部分も異なります。植物や花を飾る習慣がある方も、犬や猫の安全を最優先に考え、一律に飾らないことを推奨します。どうしても植物を置きたい場合は、「具体的な品種」と「設置場所」を獣医師に相談してください

●ゴミ箱はフタ付きに
ゴミ箱はフタ付きのものを選び、誤食をしてしまう事故を防ぎましょう。

電源コードをカバーやボックスで覆う
好奇心旺盛な子犬や子猫は、細長いものや動くものに興味を持つため、電源コードをおもちゃと勘違いして噛むことがあります。電源コードを噛むことで感電のリスクが生じ、大変危険です。市販のカバーやボックスを活用して電源コードを収納し、子犬や子猫が触れられないようにすると安心です。

【犬】

クレートを準備する

クレートとは「屋根のついた箱型のハウス」のことです。
犬は本能的に狭い場所を好むため、一度クレートに慣れてしまえば、その中は犬にとって「自分だけの落ち着けるスペース」として機能します。犬が慣れるまでは食事やおやつをクレートの中で与えたり、お気に入りの毛布などを中に敷いてあげたりして、クレートの中が「安心できる場所」だと教えてあげましょう。
また、クレートはしつけや安全管理にも役立ちます。クレートに慣れさせることで、子犬が家中を走り回って家具を傷つけたり、危険なものを誤食したりするリスクを減らせます。
車での移動動物病院への通院時にもクレートがあると安全に移動ができますし、災害時の避難でもクレートに慣れている犬は安心して過ごせます。

フローリングや階段にカーペットやタイルマットを敷く

フローリングや階段はとても滑りやすく、特に子犬や高齢犬にとって転倒や怪我のリスクが高まります。犬の足は人間のように滑りにくい構造ではありません。滑る床で踏ん張ろうとすると、股関節や膝に大きな負担がかかることがあり、これが膝蓋骨脱臼股関節形成不全などの関節疾患の原因になることもあります。
また、滑りやすい床では犬が移動するたびに緊張を感じ、ストレスの要因となることもあります。カーペットやタイルマットを敷いて滑りにくい環境にすることで、犬が安心して自由に動き回りやすくなり、生活の質を向上させることができます。

しつけに関して家族と話し合う

しつけには「一貫性」が非常に重要です。おやつをあげるタイミング、禁止することなど、あらかじめ家族全員でしつけの方針やコマンド(犬への指示)を統一しておき、犬が混乱しないよう準備しておきましょう。

コマンド(犬への指示)

お散歩をしたりドッグランなどの施設を利用したりする際に思わぬ事故が起きてしまうことを防ぐために、「お座り」や「待て」といったコマンド(指示)を犬に教えてあげましょう。
コマンドを出す際は、家族全員が同じ言葉を使うことが重要です
例えば「待て」を教える際に、「待て」と言う人と「ウェイト」と言う人がいると、犬は混乱しコマンドを正確に覚えられません。しつけを行う際に重要なのは「一貫性」です。あらかじめ家族全員でしつけの方針やコマンドを統一しておき、犬が混乱しないよう準備しておきましょう。

【猫】

爪とぎを準備する

猫は本能的に爪をとぐ行動をします。この行動は、爪を鋭く保ち、古い爪の表面を取り除くために必要な行為です。専用の爪とぎを用意することで、猫の自然な行動を満たし、ストレスを軽減することができます。
また、爪とぎをする場所がない場合、猫はソファやカーテン、壁紙などを代わりに使用してしまうことがあります。爪とぎを設置することで、家具や備品を守りながら、猫が安心して爪を研げる環境を提供できます。
猫によって、爪とぎの材質や形状の好みはさまざまです。現在は多種多様な爪とぎが販売されていますので、愛猫の好みに合うものを探してあげてください。

隠れ場所を準備する

猫は環境の変化に敏感で、特に新しいおうちに来たばかりのときは緊張しがちです。周囲が覆われた「安心できる隠れ家」を用意してあげましょう(例:段ボール箱やタオルをかけたケージなど)。安全な隠れ場所を作ってあげることで、環境への適応がスムーズになります。
隠れる場所がないと、猫は家具の裏や洗濯機の隙間など、危険な場所に入り込む可能性があります。これらのリスクを避けるためにも、事前に安全な隠れ場所を準備してください。

脱走防止を徹底する

猫は「脱走名人」と呼ばれるほど脱走のリスクが高い動物です。ドアの開閉時にすり抜ける脱走を防ぐため、玄関に二重扉を設けるなどの対策を検討しましょう。また、網戸を使用する際は、窓にワイヤーネットや専用のストッパーを取り付け、落下事故や脱走を防ぐことが重要です。

冬の静電気対策

猫の毛は静電気が発生しやすいため、乾燥する季節には加湿器を使用することをおすすめします。静電気が少なくなると、猫のストレス軽減にもつながり、快適に過ごせる環境にすることができます。

事前準備「あらかじめ考えておくこと」

【犬・猫共通】

お世話タスクの共有

犬や猫を迎えた後の生活をスムーズに進めるために、家族で話し合って日々のお世話で発生しそうなタスクやその注意点などについて共有しておきましょう。例えば、チェックリストを作成しておくと、実際のお世話が始まった際に「飲み水の入れ替えを忘れる」などのうっかりミスを防ぐことができます。
さらに、タスクを書き出して共有することで、家族全員が同じ対応を取れるようになり、犬や猫にとって安心できる環境作りができます。

災害時の避難場所の確認

おうちに迎えたその瞬間から、災害時に犬や猫の命を守るのは飼い主であるあなたの役目です。ペット同伴が可能な広域避難場所避難ルートをあらかじめ確認し、いざというときに備えておきましょう。

賃貸物件の場合:物件の持ち主への連絡・確認

賃貸物件にお住まいの場合、「ペット可」と記載されている物件でも、新たに飼い始める際には物件の持ち主へ連絡を入れる必要がある場合があります。トラブルを防ぐためにも、飼う予定の動物種(犬または猫)、頭数を具体的に伝えておきましょう。中型犬以上の犬を飼う場合は、体のサイズについても併せて伝えるとよりスムーズです。
また、必要に応じて物件の持ち主だけではなく、ご近所の方にも一言ご挨拶をしておくと、飼育に関するトラブルを未然に防ぐことができるかもしれません。

まとめ

今回のコラムでは、お迎えする前に知っておいてほしいこと、準備してほしいことなどについて解説しました。
来る前の準備だけでこんなに大変なのか!」と驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、これから10年以上を一緒に過ごすことになる新しい家族を迎えるということは、それだけ大きなイベントだということですね。
今回のコラムのキーワードである「終生飼養」という言葉を、この機会にぜひ覚えていただければと思います。

次回の<実践編>では、いよいよあなたのおうちに子犬・子猫がやってきます
【2】子犬や子猫が来たら
【3】子犬や子猫が少し大きくなったら
の二つについて、重要なキーワード「社会化期」を交えて解説いたします。
ぜひあわせてご覧ください。

 

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