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《獣医師コラム》【膿皮症】ワンちゃんの皮膚トラブルに多い膿皮症。原因や対策は?

こんにちは、レティシアン専属獣医師のIです。

だんだん気温も上がり、いよいよ蒸し暑い夏本番が迫ってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 この時期は雨天が多く、お散歩に行けない日も増えがちです。ワンちゃんたちにとってもストレスがたまりやすい季節かもしれませんね。

 また、気候の変化とともに増えてくるトラブルもあります。
その一つが「痒み」「脱毛」など皮膚のトラブルです。

 私が動物病院で働いていた頃のことを思い出してみても、春から夏にかけてのこの時期は、皮膚のお悩みをご相談いただくことが多くありました。

 今回のコラムでは、ワンちゃんの皮膚トラブルの原因の中でも大きな割合を占める「膿皮症(のうひしょう)」についてお話しさせていただきます。

 膿皮症とは?

「膿皮症」とは、皮膚に細菌が感染して、痒みや脱毛、湿疹などを引き起こす病気です。ワンちゃんの皮膚トラブルでは、この膿皮症が占める割合は非常に高くなっています。

 膿皮症は人にうつる病気ではなく、人で発生するリスクも著しく低いので、その点はご安心ください。

 膿皮症は、感染の生じている皮膚の深さにより以下の2つに分類されます。

表在性膿皮症
表皮や毛包上皮(毛の根元を包んでいる皮膚組織)における細菌感染症で、発症初期には毛包を中心として皮膚表面が赤く腫れてしまいます。時間が経過すると、ドーナツ状にフケやかさぶたが付着する表皮小環がみられます。

深在性膿皮症
表在性膿皮症よりもより深い部分に発生する細菌感染症で、病変部では血と膿が混ざった液体が染み出てくることもあります。痒みよりも疼痛がみられることが多く、表在性膿皮症よりも長い治療期間が必要になります。

一般的に、症状としてより多くみられるのは「表在性膿皮症」になります。 

 膿皮症の症状

・痒そうにしている
・毛が抜けている
・赤くなっている
・腫れている
・フケが出る
・化膿している
・悪臭がする など

 こうした症状が多く、特に湿気のこもりやすいお腹や脇、股、指の間などでよくみられます。

 膿皮症の原因

主に「ブドウ球菌」という、健康な皮膚にも存在している菌の1種が原因となっていることが多いです。
膿皮症はそれ自体が単独で発症することはまれであり、皮膚のバリア機能に異常を起こす病気と併発することがほとんどです。

 膿皮症が発症しやすい時期

膿皮症は1年を通して発症します。中でも湿度・気温がともに高くなる梅雨~夏にかけては、菌が増殖しやすい環境になるので、発症する可能性が高くなります。

 膿皮症を発症しやすい犬種

★皮膚のしわが多い犬種
フレンチ・ブルドッグ、パグ、ペキニーズ など
油分の出やすい犬種
アメリカン・コッカ・スパニエル、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ゴールデン・レトリーバー など
食物アレルギーになりやすい犬種
柴犬、シー・ズー、フレンチ・ブルドッグ、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ミニチュア・シュナウザー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア など
アトピー性皮膚炎になりやすい犬種
柴犬、シー・ズー、パグ、ボストン・テリア、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・シュナウザー、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、ヨークシャー・テリア など

 膿皮症はすべての犬種で発症する可能性がありますが、これらの犬種のワンちゃんは特に注意が必要でしょう。

 膿皮症のその他の原因

外からの刺激
不適切なスキンケアは、皮膚のバリア機能に直接影響をおよぼします。
熱いお湯での洗浄、過剰な乾燥、ブラシによる過剰な下毛(内側にあるふわふわとした毛のことで、チワワ、ダックスフント、ゴールデン・レトリーバー、ジャーマン・シェパード・ドッグなどが下毛を持つ代表的な犬種)の除去などが皮膚への刺激になってしまうこともあります。
また、ストレスなどが原因で、同じ範囲を集中的に自分で舐めたり掻いたりしてしまうのもよくありません。

感染症
ノミやマダニに対するアレルギーが原因となって膿皮症を発症することもあります。そのため、毎月の予防が必要です。

アレルギー性皮膚炎
食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などによって皮膚のバリア機能が弱まって膿皮症を発症することも少なくありません。
(食物アレルギー、アトピー性皮膚炎についてはこちらをご覧ください。)

内分泌(ホルモン)の病気
甲状腺機能低下症やクッシング症候群など、内分泌の病気によっても皮膚のバリア機能は低下します。これが引き金となって代謝機能に異常が出ることもあるため、最近元気がない、食欲が落ちたなど、気になることがあれば皮膚トラブルと併せて獣医師様に相談しましょう。

 この他にも、皮膚のバリア機能が未熟な若齢期、皮膚の機能が低下してくるシニアのワンちゃんには注意が必要です。

 また、日々の食事も皮膚の状態に密接に関係しています。
皮膚トラブルの背景には、まったく違う病気が隠れている疑いもあります。皮膚の異常以外にも目立った変化があれば必ず動物病院に伝えるようにしましょう。

 膿皮症の検査

膿皮症の診断の基本は、「病変部の皮膚から原因となる細菌を採取し、採取した細菌を特殊な液体で染色してから、顕微鏡で検出する」というものです。

採取の方法としては、「直接塗抹」「テープストリッピング」という方法が一般的に用いられます。

 ・直接塗抹
ガラス板を直接皮膚に押し当て、皮膚表面の菌を採取します。
・テープストリッピング
セロハンテープを皮膚に付着させ、皮膚表面の菌を採取します。

どちらも、短時間かつほとんど痛みを伴うことはない検査ですので、ワンちゃんに負担をかけずに実施できます。

その後、治療を続けてもなかなか改善しない場合は、皮膚に感染した細菌を培養して種類を特定する細菌培養検査や、どのお薬が効果を示すか判定する薬剤感受性試験が必要になる場合もあります。状況をみながら獣医師様に相談してみてください。

 膿皮症の治療

 膿皮症の治療は非常にシンプルで、その目的は「増えてしまった菌をコントロールすること」となります。

 治療は、主に体の内側からのアプローチ(内服療法)と、体の外側からのアプローチ(外用療法)に分けられます。

 また前述したように、他に原因となる疾患がある場合には、そちらの根本治療を行いつつ、膿皮症の症状にアプローチしていくことが重要です。

 内服療法

増えすぎた菌をコントロールするため、抗菌薬を内服で使用することがほとんどです。動物病院では、その子の体重や皮膚の状態に合わせて、お薬の種類や容量を決定します。
指示された期間より早くに抗菌薬の投与をやめてしまうと、再発や耐性菌が現れるリスクがあるので、症状が改善しても投薬を中止せず、病院で処方された量をきちんと飲み切るようにしましょう。

また、抗菌薬を飲み切ったタイミングで再診してもらい、完治しているか獣医師様に確認してもらうことも大切です。

 

耐性菌とは?

抗菌薬を使い続けていると、細菌の薬に対する抵抗力が高くなり、お薬が効かなくなることがあります。このように、お薬への耐性をもった細菌のことを「薬剤耐性菌」といいます。

 

抗菌薬の投与で改善しない場合は、皮膚に感染した細菌を培養して種類を特定する細菌培養検査、どのお薬が効果を示すか判定する薬剤感受性試験などが必要になる場合もありますので、獣医師様に相談してみてください。

 外用療法

薬用のシャンプーを使用して、外からの抗菌効果を得る方法です。
シャンプーもやり方を間違えると逆に皮膚へのダメージとなる可能性もありますので気を付けましょう。

シャンプーの効果的な手順
[1] 長毛種では、毛の向きに沿ってブラッシングを行い、シャンプーが皮膚に届きやすい状態にします。
[2] 全身をぬるま湯か水で丁寧に洗い流します。
[3] シャンプー剤を少量手の平に取り、両手になじませてからマッサージするようにして塗布します。シャンプーと皮膚の接触時間は510分程度にとどめます。
[4] ぬるま湯で洗剤成分を丁寧に洗い流します。
[5] 乾燥はタオルドライを中心に行います。長毛種では皮膚の温度が高くならないよう注意しながらドライヤーで軽く乾燥させます。過剰な乾燥は皮膚バリアを破壊し、かえって膿皮症を悪化させることがあるため注意が必要です。

基本の流れはこのようになりますが、使用するシャンプーの種類や皮膚の状態によって手順が異なる場合があります。動物病院の指示に従って行いましょう。

 食事で腸内環境を維持

膿皮症の根本的な治療は、抗菌薬の投与になります。
しかし、免疫力低下や栄養不足など内側の要因も大きく影響しています。免疫力の維持に重要になってくるのは「腸内環境の維持」です。

健康な腸内環境をキープすることは、免疫力に直結します。特に小腸は免疫を担う細胞が60%以上集まっているので、腸の状態が良いと免疫力も維持されやすくなります。

腸内環境の維持には、以下の要素が重要になります。

 食物繊維

食物繊維のほとんどは吸収されず、体の外に排出されます。しかし、腸で膨らんで水分を吸収する性質があることから、悪いものを吸着して、それを体の外に出す働きをしてくれます。

 プロバイオティクスとプレバイオティクス

プロバイオティクスとは、乳酸菌やビフィズス菌といった、体に良い影響を与える善玉菌のことです。「お薬で治療していた皮膚炎のワンちゃんにプロバイオティクスを使用したところ痒みや皮膚状態が改善した」という報告もあります。
またプレバイオティクスは、このプロバイオティクスのえさになる食品成分で、食物繊維の一部やオリゴ糖などがあげられます。

 まとめ

今回はワンちゃんの皮膚トラブルに多い膿皮症についてお話しさせていただきました。

皮膚の痒みというのはワンちゃんにとってもストレスが大きいものです。症状が出た際は早めに動物病院で診てもらい、悪化・再発を防止していくことが大切です。

 まずは、日頃から栄養バランスのとれた食事を心がけ、ワンちゃんの免疫力アップを目指しましょう!

 

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