• Twitter
  • FaceBook
  • instagram
  • LINE

《獣医師コラム》【シニア猫の介護<後編>】人も猫も幸せな介護・最期について

こんにちは。レティシアン専属獣医師のCです。

獣医師コラム【シニア猫の介護】の<前編>では、猫が歳を重ねることで見えてくる変化・気付きにくい変化・具体的な介護方法などについてお話ししました。

今回の<後編>では、介護を進めるうえでの環境作り、治療の面で気をつけたいこと、「介護する側」の体力的・精神的負担についてなど、獣医師の立場かつ、1オーナーとしてお話しさせていただきます。

また、コラムの最後にいつかはくる最期について、私なりの考えを書かせていただきました。本コラムが皆様の愛猫の健康診断や治療のご参考に、また少しでも心の支えになることを願っております。

愛猫がシニア期になったら考えるべきこと


まずは健康への意識を高める

シニア期に入ったら、まずは要介護となる前に健康への意識を高めましょう。特に以下のポイントにはより気を配るようにしましょう。

・体重管理・肥満であると罹りやすい循環器・関節疾患の予防のため
・部屋の室温・湿度管理・免疫機構が弱くなり、室温・湿度が健康維持により影響を与えるため
・適度な運動・筋肉量の低下を防ぐため・血行を良くするため

環境の変化は避ける

獣医行動学では、「愛猫の視力の低下が感じられた後は、できるだけ模様替えや引っ越しは避けたほうが良い」とされます。視力が低下したとしても、置いてある物の種類や位置を認識・記憶しているため、環境の変化がなければ視力以外の感覚を使って問題なく行動できることが多いのです。

健康診断は「半年に1度」

健康そうに見えていても水面下で進行する病気はたくさんあります。また、猫は病気の症状を隠すことが得意なため、毎日一緒に過ごしているオーナー様でも病気の進行に気付くことは難しいものです。

健康診断では、水面下で進行する病気を早期発見できることがあり、早期治療の開始が可能となります。健康診断は「1年に1回」が推奨されていますが、シニア期とされる7歳以降は「半年に1回」の健康診断が理想です。猫は人間よりも早いスピードで歳を取るので、半年に1回の健康診断でも、人に置き換えると22.5年に1回の頻度になります。早期治療のために、健康診断は定期的に受けると良いでしょう。

シニア期のワクチン接種について

ワクチンは、感染症を予防する、または感染したときの症状を軽減させるためのものなので、接種を続けることが望ましいです。

「うちは外に出る機会はないので感染の危険はないはず」「うちは多頭飼いではないので感染の危険はないはず」といったお声も耳にしますが、感染の可能性はゼロではありません。そして、ワクチン接種を推奨する病気は、免疫機構が弱まっているシニア猫が感染すると死に至るものばかりです。入院や病院へ行く機会にも備えて、ワクチン接種は続けましょう。

ただし、具合が悪いときのワクチン接種は命にも関わります。タイミングに関しては、かかりつけの獣医師と相談して決めましょう。

シニア猫に優しい治療について

人と同様に、歳を重ねるとどうしても体のいろいろな場所に異常が出て、病気を複数持つことがあります。若い場合は根本治療を目指した手術や、やや作用が強めの薬でも使用することがあります。しかし、シニア猫となると積極的な治療による体・心への負担の方が大きいと考えられる場合には、副作用が少ない治療や、根本解決ではないが症状を抑える対症療法などをおすすめすることがあります。

治療や検査、投薬において「激しく嫌がる場合は無理強いしない」というのもひとつです。かかりつけの獣医師に現在の病気の進行度と治療の見込み、治療の選択肢を聞いたうえで、家族と相談し、納得のいく選択を考えていきましょう。

かかりつけの獣医師との連携

いざというときの判断材料のために、また報告がスムーズに進めるために、かかりつけの獣医師には普段の猫の様子や介護の状況などの情報を共有しておきましょう。何か変化を感じたときは、「どこに」「いつ頃からか」「変化前後の様子の詳細」などお伝えすると判断の参考になります。

現在の状況については、毎日一緒に過ごしているオーナー様にしか気付けないこと、また獣医師にしか気付けないことの両方があります。健康診断などのタイミングで普段の様子(主に食事・トイレ・運動について)をお話しできると良いでしょう。変化に気付きやすい・情報共有をしやすくなりますので、記録をつけておくのもおすすめです。

「介護をする側」の負担も考える

人でも犬でも猫でも、介護において介護する側の人の体力的・精神的な負担はとても大きいものです。愛猫の辛そうな姿を見ることで心が沈みますし、自分のやるべきことを進めながら24時間介護にも気を配る労力は並大抵ではありません。

それでも意識が高いオーナー様ほど、「狭い場所に閉じ込めるなんてかわいそう」「まだまだ私は完璧な介護ができていない」などと、自分を責めながら無理をして介護を続ける方がいらっしゃいます。

その気持ちは尊いものですが、無理を重ねた介護では限界が来てしまいますし、猫も大切なオーナー様が自分のせいで苦しむことは望んではいないはずです。「辛いかも」と思う前に心と環境の準備をしましょう。

協力者と一緒に介護を行う

介護は毎日、24時間のことなので、1人で完璧にしようとすると本当に苦しくなってきます。家族や友人、動物病院やトリミングサロンとこまめにお話をして情報共有をしながら「協力して介護を進める」イメージで行い、1人で抱え込まないようにしましょう。

介護アイテム・サービスの利用

大切な家族の介護はどうしても自分の力で進めたくなるのですが、介護サポートアイテムの使用や、ペットシッターや獣医師などのプロに頼むことも検討しましょう。

サービスを利用することは決して甘えではありません。もっとも避けるべきことは、体や心のキャパシティオーバーにより介護が続けられなくなることです。どうしても継続的なケアが難しい場合や長期不在が不安な場合には、獣医師に相談のうえ、動物病院の一時預かりやペットシッターにお願いすると安心です。

最近では動物病院だけではなく、介護に特化したシニア猫ホームサービスや、ペットシッターによるホームケアサービスなどもあります。体や心に限界を感じたときは、お話をするだけでも少し楽になれます。ぜひ相談してみましょう。

いつかはくる最期を考える

あまり考えたくないことですが、いつかは愛猫とのお別れのときがやって来ます。「このおうちに来て、この家族と出会えて幸せだった」と思ってもらえるように最善を尽くすことが、愛猫のためにも自分の心のためにもなります。

残りの時間をより良いものにする

お気に入りの美味しいおやつを食べさせたり、外の風に当たったり、最期の時間をより幸せだったと感じてもらえるように過ごしましょう。できるだけたくさんの時間を一緒に過ごせるように意識したり、感謝の気持ちを伝えたりすることで、残されたオーナー様の後悔の念も軽くなります。

思い出を残す

ペットを飼育中(もしくは飼育経験あり)の方を対象としたアンケート調査で「ペットロスを乗り越える方法」を伺ったところ、数ある方法の中で1位は「写真や思い出の品を飾る」だったそうです。写真を撮ったり、日記のように介護記録をつけたりすることは、心の準備としても、後から思い出を振り返るときのためにもおすすめです。

最期の選択について

愛猫の尊厳に配慮しながら、痛みや不快から解放するための処置として、動物病院では「安楽死」という選択肢を提示することもあります。

この場合、痛みを感じず、ストレスと不安が最小限になるような順番で薬を投与し、ゆっくりと眠るように亡くなります。かなり勇気がいる選択ですが、安らかに眠るように最期を迎えられ、猫にとってもご家族にとっても幸せのための最善案だったと思える場合もあります。最期の選択肢の1つとして、知っておいていただきたいと思います。

まとめ

愛猫がシニアになり、元気に走り回っていた姿が見られなくなったり、徐々に衰弱していくことを感じながら介護をしたりするのは、辛く感じることも多いものです。私自身、愛猫を看取った際には、ただ最期の瞬間に「この家族でよかった」「このおうちに来てよかった」と感じてもらうために通院・介護を頑張っていました。

大切な可愛い家族のためですから、無理をしてでも頑張りがちです。1人で抱え込まずに家族に協力を求めてみたり、ペットシッターや獣医師などのプロに相談したりして、「自分も愛猫も満足のいく介護」を目指しましょう。このコラムが少しでも介護のお役に立ち、心の支えになれると嬉しいです。

シニア犬の介護についてはこちらのコラムもご参照ください。

【シニア犬の介護】 ~愛犬の最期への心構え、簡単なケアについて~

 

この記事をシェアする
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE