こんにちは。レティシアン専属獣医師のCです。
近年、生活水準の向上や医療の発展によって猫の寿命は延び続けています。
私は以前、動物病院で勤務していましたので、シニア猫の介護やケア方法のご相談を受けることも多く、猫の介護や最期と向かい合う機会も少なくありませんでした。猫の介護が必要となる理由は、老化・突然の病気・ケガなど様々で、介護方法にしても、猫やオーナー様の生活習慣によってそれぞれ異なります。
介護や治療方法の選択の際には “オーナー様の考え” が重要になりますが、「痛み苦しみを和らげたい」「原因の病気を解決し長生きしてもらいたい」「最期はおうちで安らかに過ごしてほしい」など、こちらも様々でした。猫の介護は、オーナー様とご家族、獣医師で協力しながら、猫の不安やストレス、痛みの軽減を目標に進めていくものです。
今回は、病気の発見から治療、介護、最期の看取りまで、オーナー様と一緒に考えさせていただいた私の経験を元に、また、オーナーとして大切な家族の猫を看取った経験も踏まえて、本コラムを執筆させていただきました。
猫もオーナー様も、どちらもがより幸せな介護生活を送れ、納得できる最期を迎えられるよう、猫の介護について、介護アイテムのご紹介やペットロス問題まで広く細かくお伝えできればと思います。
その<前編>として、猫が歳を重ねることで見えてくる変化・見えにくい変化・具体的な介護方法など、猫の介護にまつわる様々なお話をご紹介します。
目次
猫の介護
猫は「7歳からシニア」「11歳からハイシニア」と言われており、これらの年齢から少しずつ体に変化が出てきます。そして、快適な生活を送るためには徐々に人の助けが必要な状態となってきます。
介護が必要になるケースとして、まず考えられるのは老化ですが、突然の事故や病気により介護が必要になることもあります。その際は、必ず獣医師にケガや病気ごとに異なる “特に注意すべきポイント” を聞いておきましょう。
介護が必要となった愛猫の生活をより良いものとするため、気持ち良く過ごしてもらうためにできることはたくさんあります。介護に関する知識を得て、無理せずひとつずつ実践していただければと思います。
歳を重ねることで見えてくる変化
猫が歳を重ね、シニア猫となった際には、行動や体の様々な変化が見えてきます。下記リストは、目に見えやすい変化をまとめたものです。複数当てはまる場合は、徐々に介護の準備を進めましょう。
シニア猫になると表れる目に見えやすい変化
・水を飲む量が増える
・食べる量が減る
・痩せる
・嘔吐する頻度が高くなる
・口臭が強くなる
・目やにが増える
・よだれが増える
・毛玉が増える、毛がバサバサと粗くなる
・トイレの失敗が増える
・歩行時にふらつく
・よく物にぶつかる
・夜鳴きが増える
・爪がよく割れる
・爪とぎをしなくなる
・活発に動かなくなる
シニア猫に多い気付きにくい病気に注意!
腎臓病
シニア猫にもっとも多い病気といえば、亡くなる原因の1位である「腎臓病」です。病気が進行していないと症状が出ないため、初期で気付くのは非常に難しいです。ある程度まで進行してしまうと、水を飲む量や尿が増え、さらに進行すると食欲不振や嘔吐などの症状が見られます。
対策としては、定期的な健康診断で血液検査を行い、腎臓の数値をモニタリングしましょう。食事においては、リンやタンパク質の調整や、水分とEPA・DHAの補給を意識することも対策となります。
関節炎
「7歳以上の70%、12歳以上の90%の猫が関節炎を患っている」というデータがあります。しかし、オーナー様が認識できるほどの症状が出ているのは、関節炎の猫全体のわずか3%という、とても気付きにくい病気です。
関節炎の原因は、加齢によって骨や軟骨がもろくなること、血管が硬くなることなどとされ、治療は痛みを抑えることがメインとなります。予防としては、できるだけ関節に負担をかけないように体重管理をすること、すべりにくい床材にすること、食事管理をすることなどがあります。食事ではグルコサミン・コンドロイチンや、EPA・DHAの補給を意識することがおすすめです。
甲状腺機能亢進症
8歳以上で増える、甲状腺の病気です。甲状腺ホルモンの関係で代謝が亢進することにより、たくさん食べるのに痩せている、攻撃性が増す、嘔吐下痢などの症状が出ると言われます。しかし、目立つほどの症状が出ることは少なく、血液検査で発見されることが多いです。
治療としては、外科的に甲状腺を切除すること、放射線ヨウ素療法など様々ですが、シニア猫で行われることの多い治療法としては、ホルモンの生成を抑える抗甲状腺薬の投与や、ヨウ素を抑えた食事です。残念ながら予防方法がない病気ですので、定期的な健康診断で早期発見・早期治療を目指しましょう。
具体的な介護の方法とケアアドバイス
食事・水分について
まずは水分補給
7歳を越えたら、まずは水分補給を意識しましょう。ただ、猫が自らたくさんお水を摂取することは難しいので、栄養補給のためにも普段のフードにトッピングすることが手軽でおすすめです。
食べやすい環境作り
シニア猫になると様々な理由から食欲低下が見られます。「食べよう」という意識が出たときに、しっかり食べて栄養をとってもらうために、より食べやすい環境を作ることも大切です。例えば、「水やぬるま湯、ささみのゆで汁などでドライフードをふやかす」「顔の位置に合わせた食事台の設置」「ウェットフードの使用」などがおすすめです。ただし、猫によって好みがありますので、好みに合わせて与えることが1番です。
食べたそうなそぶりを見せるけれどフードを食べない、よだれが増えたといった症状が見られる場合は、歯や口の中が痛い歯周病や口内炎の疑いがあります。そのような子には治療だけではなく、ドライフードのふやかしや、ウェットフードへの切り替えを検討してみましょう。
食事時のサポート
寝たきりの場合は、誤嚥(※)に気をつけながらの食事のサポートが必要です。
※誤嚥:口に入れた食べものや水分・唾液などが、なんらかの理由で、誤って食道ではなく、気道(気管)に入ってしまう状態です。誤嚥性肺炎や窒息の原因となります。
★誤嚥を防ぐコツ
食事の姿勢
ふせの姿勢で、顔を床と水平な状態から約45度上げると気道に入りにくくなります。
食事の与え方
口の中いっぱいに食べもの・水分を含むと危険なので、とにかく少しずつ、ゆっくりと与えましょう。
シリンジで与える場合は、一気に押し出さないように気をつけましょう。
食事内容
水分が多く柔らかい、小さいものを与えましょう。
ふせの状態も難しい場合は、シリンジで少しずつ、犬歯の後ろの隙間から与えましょう。シリンジはネットでも購入できますし、動物病院でも購入できることがあります。ペットショップのウェットフードやシニア用フードの近くにも置いてあるのを見かけます。
シリンジは、繰り返し使用すると歯で削れ、先端部分がとがってくることがあります。一定期間使用したら新しいものと交換しましょう。
介護に重要な「トイレ」「おむつ」について
トイレがしやすい環境作り
屋根付きの上から出入りするタイプのトイレなどは、シニア猫がトイレを我慢してしまう可能性があるため避けましょう。ふちが低く、力を入れずとも入りやすいトイレが良いです。
トイレを変えると嫌がる子もいますので、変更するときはまずは現在使用しているトイレを置いたまま、新しいものを隣に設置し、猫砂も匂いの付いた前のものを新しいトイレに入れて徐々に移行するとストレスを感じにくいです。
トイレの変更が難しい場合は、入りやすいようにスロープを付けてあげたりすると良いでしょう。足裏の感覚を頼りにトイレにたどり着きやすくするため、トイレと寝床までの道にジョイントマットをつなげてあげるなど、トイレまでの道を工夫することもおすすめです。
また、シニアになるとトイレの回数が増えるので、生活空間内にトイレを1~2個増やしてあげると良いでしょう。ただし、寝床・食事スペース・トイレがそれぞれ近すぎるとストレスを感じてしまいます。トイレは寝床・食事スペースから50cm以上離しましょう。
おむつの使用
粗相が増えた場合や、寝たきりの場合は、おむつの使用も検討しましょう。最初は嫌がる子も多いですが、慣れるとケアがとても簡単になります。
ただし、おむつは蒸れによる皮膚の炎症が怖いので、数時間に1度はトイレをしていないかチェックし、トイレをしている場合はすぐに取り換えてあげましょう。
長毛の子でおむつを付ける場合は、お尻周りの毛をカットするとお手入れも楽になりますし、皮膚トラブルのリスクが下がります。
どうしてもおむつの使用を嫌がる子であれば、数時間に1回や食後30分後に定期的にトイレに連れていき、排泄を促しましょう。寝床の下にペットシーツを敷くこともおすすめです。
「寝床」の見直しについて
シニア猫が1日の中で過ごす時間が1番多くなるのが寝る時間です。そのため介護において寝床はとても重要です。
快適な睡眠環境作り
シニアになると筋肉が減って骨が床に当たりやすくなり、これを不快に感じたり、擦れやすくなったりします。不快感や負担軽減のために、クッション性が高く、通気性の良い寝床を用意してあげましょう。
寝たきりの場合は、誤嚥を防ぐため、頭が少し高めになるように枕やタオルを頭の下に置いてあげるとより良いです。嫌がる子の場合は、食後1時間だけでも頭は高めの位置に保っておきましょう。
敷布団が取り替え可能な場合はこまめに洗濯し、取り替えできない場合はタオルや毛布を敷いてそれをこまめに洗濯しましょう。また、寝床は空調が直接当たる場所や、人の移動が多すぎる場所は避けましょう。
床ずれ予防
寝たきりの場合は、2~3時間に1度、上下を変えて床ずれ(※)を防ぐことが大切です。床ずれは、頬・肘・肩・腰など、骨が出っ張っている所で起こりやすいため、赤みが出たり毛が薄くなったりしていないかこまめにチェックしましょう。
部分的に床ずれが見られた場合は、その下にクッション性の高いタオルや介護用マットを敷くことがおすすめです。トイレのシーツを厚めに敷くのも良いのですが、シーツがずれやすいので、下のベットやマットとテープで固定するようにしましょう。
※床ずれ=褥瘡(じょくそう):持続的な圧迫により血行が悪くなり皮膚が傷つくことです。
より幸せに過ごしてもらう工夫
寝たきりの場合、猫の好きだった場所に寝床を置いたり、一時的に移動させたりすることもおすすめです。お外を見ることが好きだった猫であれば、たまにお外が見える場所に寝床を移動してあげるなどすると喜んでくれるでしょう。ただし、他の猫が遊びに来て興奮してしまったり、直射日光に長時間当たったりすることは避けましょう。
動物病院では、少しでも幸せに過ごしてもらうための工夫として、寂しがり屋の子は人が見えやすいところに、もともとお外で生活していた子は一時的に窓際に移動させるなどしていました。
シニア猫の体全体のケアについて
爪切り
体のどこかに嫌悪感や痛みがあると、走る・遊ぶ・爪とぎをするといった行為が減っていきます。その結果、太い爪、割れやすい爪になり、怪我をする可能性が高まります。「以前よりも活発ではなくなってきたな」と感じたら、爪のチェックを増やし、定期的にカットしましょう。おうちでの爪切りが難しい場合は、動物病院やトリミングサロンに相談するのも良いかもしれません。
ブラッシング
シニアになると、グルーミング不足や油の分泌が減ることによって、毛がバサバサと粗くなってきます。また、長毛の場合は毛玉が増えやすくなることがあります。毛玉はできてしまうとかなり厄介で、ひどくなると皮膚が引っ張られ痛みが生じるため、できる前に予防し、できたらすぐ対処しましょう。
定期的なブラッシングは、毛の絡まりを防ぐ1番手軽で有効な方法です。毛の流れに沿ってブラシを通すことで、毛玉予防だけではなく血行促進にもなります。
また、毛やフケは感染源となるため、ブラッシングが終わるたびに捨てて、定期的にブラシの掃除や交換を行いましょう。ブラシには様々な形があり、目的や自分のブラッシングの慣れ具合で使い分けしましょう。
★ブラシの種類
コーム:仕上げ用・毛玉探し用。
ピンブラシ:ピンが柔らかく皮膚に優しい。ブラッシング初心者向け。
ラバーブラシ:マッサージにもなるゴム製のブラシ。短毛種の猫におすすめ。
スリッカー:毛玉をほぐし毛流れ改善。猫は嫌がることが多い。ブラッシング上級者向け。
獣毛ブラシ:毛艶を与える。皮膚への刺激が少ない。
お風呂に入らないケア
歯周病や腎臓病により、唾液の匂いが強いままグルーミングをすると、体臭が強まってしまうことがあります。しかし、グルーミングを止めることは猫にとってストレスになるので、ドライシャンプーや体拭きシート・ホットタオルで体を優しく拭いてあげると良いでしょう。
猫はどうしてもお風呂が苦手な子が多いので、ドライシャンプーはとても便利です。ホットタオルは40~50度ほどのぬるま湯に浸けて絞ったものでも良いですし、水で濡らして数秒レンジで温めたものも簡単でおすすめです。猫が火傷しないように、必ず触れる前に人肌よりも少し温かいくらいの温度になっているか確かめましょう。
目・口周り
シニアになると、どうしても目やに・よだれが増え、目・口周りが汚れがちです。汚れたままにしておくと皮膚トラブルの元になるので、こまめにケアしてあげましょう。
特に目やには、時間が経って固まってから無理に取ろうとすると痛みが生じます。ぬるま湯に浸したコットンガーゼやタオルを優しく当て、ある程度ふやかしてから拭ってあげましょう。
長毛であったり、あまりに範囲が広かったり、高頻度でケアが必要な場合は、目・口周りの毛をカットしてあげると、皮膚病リスクが下がりお手入れもしやすくなります。口周りは特に顎下がトラブルになりやすいので、食事後はチェックしましょう。
お尻周り
お尻周りも非常に皮膚がデリケートな部分で、乾燥したティッシュでゴシゴシ拭くと赤くなり、繰り返すとかぶれてしまいます。特におむつの使用中や、寝たきりの場合は蒸れやすく傷つきやすいので、定期的にぬるま湯に浸したコットンガーゼやタオルで拭ってあげましょう。
毛をカットする場合は、お尻周りだけではなく、しっぽの裏側もカットしてあげるとお手入れがしやすくなります。猫の皮膚は人の皮膚よりも薄くデリケートなので、バリカンなどを使用するときは、動物病院やトリミングサロンに任せた方が安心です。
≪獣医師推奨≫おすすめ介護アイテム
サークル
オーナー様からよく聞くお悩みとして「ウロウロして危ない」「いたるところでトイレをしてしまう」この2つがありました。
こうしたケースでは、安全かつ動き回ることもできる柔らかい素材でできたサークルの配置がおすすめです。人の赤ちゃん用でも犬用でも構いません。「ペットサークル」で検索するとたくさん商品が出てくるので、お部屋の大きさや機能性から検討してみてください。
コーナークッション
サークルを置くことが難しく、視力の低下が見られる場合は、家の中の柱や家具の角にコーナークッションを設置することもおすすめです。
ケアマット
寝床としてシニア猫用のマットはとても便利なアイテムです。体圧分散・通気性◎・低反発・まくら付き・速乾など、機能は様々です。体圧分散や低反発も大切ですが、介護は毎日のことなので、お手入れのしやすさを重視すると良いでしょう。
スロープ
今まで簡単に行くことができた場所に移動ができなくなるのは、猫のストレスの元になり、トイレ失敗の原因にもなります。スロープには様々な種類がありますが、スロープの底にも歩く場所にも両方とも滑り止めが付いたものがおすすめです。
まとめ
猫の介護というのは、通常のお世話とは違い、猫だけではなくオーナー様自身にとっても、体力的・精神的に難しいものです。大切な可愛い家族のために無理をして頑張りがちですが、ひとりで抱え込まずに家族へ協力をお願いしたり、プロに相談したりして「自分も猫も満足のいく介護」を目指していきましょう。
このコラムが少しでも介護のお役に立てると嬉しいです。
コラム<後編>では、介護を進めるうえでの環境作り、治療の面で気をつけたいこと、「介護する側」の体力的・精神的負担についてなど、獣医師の立場かつ、1オーナーとしてお話しさせていただきます。ぜひご覧ください。
▼シニア犬の介護についてはこちらのコラムもご参照ください。
【シニア犬の介護】 ~愛犬の最期への心構え、簡単なケアについて~