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≪獣医師コラム≫犬の歩行異常について ~歩行異常の原因ごとに症状・治療を解説~

こんにちは、レティシアン専属獣医師のI です。

「お留守番から帰ってきたら愛犬の歩き方がいつもと違った」
「ソファから飛び降りて少し足を引きずっている」
など、日常の生活の中で愛犬の “歩行異常” は遭遇しやすいトラブルかもしれません。

しかし、目に見える傷でもない限り、どこが痛いのか、どこに原因があるのかを判断するのは難しいため、とても心配になってしまいますよね。

今回のコラムでは、ワンちゃんの歩行異常について、原因ごとの症状・治療についてお話します。

骨の異常

骨折

高いところやソファから飛び降りたとき、階段からの落下、フローリングで滑っての転倒、オーナー様が誤って踏んでしまった、交通事故、喧嘩など、日常の中で骨折の危険があるシーンは多く思い浮かびます。

症状
骨折は、下顎、足、背骨、肋骨、骨盤などあらゆる部分で発生する可能性があり、元気がない、食欲が落ちる、痛みのある部分を舐める、足を引きずる、トイレがうまくできないなどの変化がみられます。特に患部を触ると強く痛がる、患部が腫れて熱を帯びているなどの症状がある場合は、骨折が強く疑われます。
全犬種で起こりえますが、ポメラニアンなどの足の細い小型犬や、イタリアン・グレー・ハウンドなどの競技用の犬種などは特に骨折しやすいと言えます。

治療
骨折の種類や場所、骨の強度によって治療方法は様々です。
ギプスや副木を付けて安静にしてもらうこともありますし、手術でピンやプレートなどを取り付けて固定する場合もあります。骨折から時間が経過してしまうと、骨が変形してしまうこともあります。また最悪の場合、感染が起きて断脚することになりかねません。できるだけ早めに動物病院に連れていくことが大切です。

膝蓋骨脱臼(パテラ)

膝蓋骨脱臼は私が病院に勤めていた時も、かなりの頻度で認められた疾患でした。
膝蓋骨は、太ももの筋肉と膝の靭帯とともに膝の曲げ伸ばし運動に関わっています。膝蓋骨脱臼とは、後肢にある膝蓋骨(膝のお皿)が正常な位置からはずれた状態を言います。ポメラニアン、トイ・プードル、マルチーズ、チワワ、ヨークシャー・テリア、柴犬などの中・小型犬で比較的よくみられます。

症状
軽度の場合はほとんど症状を認めませんが、まれに突然鳴いて後ろ足をあげたり、時折スキップする様子が、みられたりすると膝蓋骨脱臼が疑われます。症状が進行すると、膝蓋骨が常に外れた状態になり足をあげたまま歩行することが多くなります。

治療・対策
治療方法も脱臼の程度によって変わります。症状が出ている場合は、手術による治療が推奨されます。また、若いワンちゃんで重度の脱臼がみられる場合は、放置すると筋肉や骨の異常が進行することがあるため、手術が推奨されます。
ただ、全く症状がない場合や、脱臼の頻度がとても低い場合など、ワンちゃんの状態や年齢、ご家族のご意向などに応じて、経過観察となる場合もあります。この場合は生活の質を保ち、現在の状況を悪化させないことが目標となります。
日頃の体重管理や生活環境の整備(段差をなくす・滑らないように対策をするなど)が発症の予防につながります。

成長板早期閉鎖

成長板とは、成長期に骨を伸ばす働きをしている軟骨のことです。成長期にしか存在せず、成長期が終わると骨に置き換わります。
この成長板が早期に閉鎖してしまうと骨の長さに差異が生じ、様々な影響を及ぼします。骨折などの外傷による成長板の損傷、栄養障害、遺伝などが原因で、成長板の働きが失われてしまうと発症します。

症状
成長板早期閉鎖が生じた場所によっては骨の変形が起こります。特に前肢の骨での発生が多く、骨の変形、脱臼、靭帯の損傷などに伴って、歩行異常がみられます。特にミニチュア・ダックスフントなどの軟骨異栄養性犬種<注1>では、遺伝的に起こりやすいと言われています。
 

<注1>軟骨異栄養性犬種とは?

遺伝的な骨格の違いがある犬種のことで、ミニチュア・ダックスフント、ウェルシュ・コーギー、シー・ズー、ペキニーズ、ビーグルなどが当てはまります。

 

治療
成長期であれば手術で矯正を行います。成犬になってから診断された場合は、症状に応じて疼痛管理などの緩和療法を選択する場合もあります。

無菌性大腿骨頭壊死症(レッグカルベペルテス病)

大腿骨の先端(大腿骨頭)への血液供給が障害される結果、大腿骨頭の成長障害が生じ、骨の変形・崩壊が生じてしまう疾患です。放置しておくとやがて骨折を起こし、股関節の硬直や疼痛が永続的に現れるようになります。現在のところ遺伝疾患と考えられています。

症状
歩幅が狭いなどから始まり、次第にはっきりとした歩行異常へと悪化していき、放置すると筋肉の萎縮などもみられるようになります。

治療・対策
症状が軽度であれば鎮痛剤や運動制限による内科治療を行うこともありますが、これは根本的な治療ではなく症状を和らげる方法です。一時的に症状の改善がみられても、ほとんどのケースで症状は進行します。
外科的に大腿骨頭を切り取る大腿骨頭切除術を行うことが根本治療となり、症状や犬種によっては、追加で人工関節の設置が必要になることもあります。
手術を行った後は積極的なリハビリテーションが重要になり、通常はほぼ正常な機能の回復が期待できます。

関節の異常

変形性関節症

犬の疾患の中でも多くみられ、成犬の約20%が罹患していると言われています。

症状
繰り返される運動の刺激や老化、肥満による関節への過負荷、先天的・成長期の関節形成異常などが影響しあい、関節周囲に腫れや痛みなどの症状が起こります。
早期に発見し治療を開始することで、変形性関節症の影響を最小限にとどめることができますが、緩やかに進行するため初期段階では気付きにくく、症状が目立つものになるまで気付かれないことも多いです。

治療・対策
完治させることは難しく、症状の緩和と関節の機能の維持が主な目的となります。痛みのコントロールをしてあげることもワンちゃんの生活の質の向上につながります。
子犬のころから適切な体重を維持することで、発症を遅らせ重症化を低減することが明らかになっているので、日頃の栄養管理が発症の予防につながります。

股関節形成不全

股関節の発育異常のことで、「遺伝的な要因が7割、環境的な要因が3割」と言われています。
環境的な要因とは、食生活の偏りや運動不足による肥満、成長期の激しい運動や関節に負担の大きい生活環境等に由来することを意味します。
また、大型犬は短期間で体が大きく育つため、成長期は骨の成長と筋肉形成のバランスが崩れて関節が不安定になりやすいというリスクがあります。

症状
1歳以下の大型犬に発症することが多く、軽度の場合はオーナー様が気付くような症状が出ないことがありますが、進行すると腰を左右に揺れ動かして歩く特徴的な症状がみられることがあります。

治療
治療方法は保存療法<注2>と外科療法に分けられますが、股関節形成不全を持つ犬の80~90%は保存療法を行うことで通常の日常生活を送ることが可能です。外科手術は、保存療法で改善がみられないシニア犬、高い運動機能を求める犬、関節炎の進行を抑えたいという希望がある場合に適応されます。
犬のサイズ、年齢によって適した手術方法が違うので動物病院と相談して治療を進めていくことが重要です。
 

<注2>保存療法とは?

体重管理・栄養補助・適度な運動・リハビリテーション・お薬による痛みの緩和などといった直接原因を取り除くのではなく、症状の改善や緩和を目指す治療のことを指します。
愛犬のリハビリについては下記のコラムで詳しく解説していますので是非ご覧ください。
【愛犬のリハビリ】~注目されるハイドロセラピーについて~

肩関節不安定症

関節を支える重要な靭帯や筋肉が、慢性的な軽い炎症により損傷を受けることで、肩関節が不安定になる病気です。
この不安定症は、肩関節が生まれつき未発達であるために起こりやすく、ちょっとした負荷で肩が外れやすくなり、肩を動かす角度が通常よりも大きくなることがあります。
トイ・プードルなどの小型犬で発生が多いことから遺伝的な要因が発症に関わっている可能性があります。
他にも、外傷・過度の運動で慢性的に肩関節を痛める、肥満による関節への過剰な負担などが原因として挙げられます。

症状
痛みを避けるために前肢を地面から持ち上げたまま歩くことがあります。また、立ち止まるときに前肢を浮かせる、頭を上下に動かしながら歩く様子が見られます。さらに病状が進行すると、痛みはより強まり、歩行が困難になったり、前肢に触れられるのを嫌がったりするような行動がみられることがあります。

治療
脱臼に対する本格的な治療は、可能な限りすぐに整復することです。肩関節の整復の方法には大きく2種類あり、包帯による安定化(非観血的整復)と、手術による安定化(観血的整復)があります。

靭帯の異常

前十字靭帯断裂

前十字靭帯とは膝の関節の中に走っている靭帯のことで、膝の安定性に関わっています。
前十字靭帯が損傷すると膝の安定性が低下し、力をかけられなくなってしまいます。
犬ではスポーツなどの外傷による断裂はまれで、加齢や骨の形が影響して徐々に靭帯の構造に変化が生じ、もろくなった結果、断裂してしまうことがほとんどです。そのため、散歩や階段を上るといった日常生活で行うような簡単な運動をしただけでも損傷する可能性があります。

症状
靭帯が断裂した直後は、痛みのために地面に患肢を最小限しかつけないような歩き方をしたり、足を挙げたままの状態になったりします。

治療・対策
治療は、基本的には外科治療となります。一部分の断裂であっても、放置しているとそのまま重度の関節炎に移行する可能性があります。また、完全に断裂する前に手術を行う方が完全に断裂を起こしてから手術を行うよりも経過が良いという報告もあります。
ただ、小型犬などの体重の負担が少ない子の場合は、内科治療で症状が緩和することがあります。また、麻酔のリスクが高いシニアの子などでは、外科治療を避け内科治療を選択することがありますが、この方法は現状維持を目指す方法なので根本治療とはならず、症状が進行してしまうこともあります。
膝蓋骨脱臼と同様、日頃の体重管理や生活環境の整備(段差をなくす・滑らないように対策をするなど)が発症の予防につながります。

神経の異常

椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアとは、椎間板という背骨の間に挟まっている軟骨が変性し突出することにより、太い神経を傷害し、様々な神経症状を引き起こす疾患です。首から腰のどこにでも発生する可能性がありますが、最も多いのは背中から腰にかけてです。
激しい上下運動や加齢、肥満などが原因で発症することが多く、前述にも出てきた軟骨異栄養犬種で好発します。

症状
腰部のヘルニアでは初期の症状では、背中を触られたり歩くことを嫌がったりする様子がみられます。進行すると後肢の麻痺などがおこり、自力での排便・排尿が困難になることもあります。

治療・対策
治療には内科治療と外科治療があります。
内科治療は、症状が痛みのみ、あるいは部分的に軽度な麻痺がある、歩行が可能なときに行われます。主にケージレスト(運動を制限してケージ内などで安静に管理すること)とお薬の投与を行います。その他、鍼灸治療やレーザー治療などを行うこともあります。
部分的な麻痺の場合、内科治療のみで80%以上が回復すると言われていますが、再発のリスクも高いです。
外科治療は、内科治療で改善がみられない・自力での歩行が困難な場合に適応となります。
検査を実施し、ヘルニアを起こしている部位を特定し、神経の圧迫を取り除く手術を行います。重度の麻痺の場合、発症から48時間以上経過してしまうと、術後の回復率が極端に悪くなると言われているので、早期に手術を行うことが重要です。
他にも、新しい治療法として、再生医療が用いられることもあります。
体重の管理や、段差の上り下りを避けることが発症の予防につながるので、特にシニアで好発犬種のワンちゃんの飼い主様は意識してあげるといいでしょう。

ウォブラー症候群

頸椎と呼ばれる首の骨の不安定性や骨の異常によって神経を圧迫する病気です。
はっきりとした原因はわかっていませんが、おそらく先天的な要因があるのではないかと考えられており、ドーベルマン・ピンシャーやグレート・デーンといった大型犬種に多く認められます。

症状
初期では、頚部の痛みがでることが多く、進行すると歩くときに前足の歩幅は小さく動き、後ろ足の歩幅は大きくふらついているという特徴的な症状を示すことがあります。

治療
症状が軽微であれば、頚部の固定や運動制限などの保存療法やお薬の投与などの内科療法で管理がうまくいく場合もあります。しかし一般的には進行する場合が多く、内科療法でも改善がみられない場合や症状が重篤な場合は手術が推奨されます。

馬尾症候群

腰から後ろの神経(馬尾神経)が、圧迫され障害を受ける病気です。
外傷・椎間板ヘルニア・腫瘍・関節の不安定などにより、神経が圧迫されることで起こります。

症状
始めは腰やしっぽを上げたときに痛みが出たり、座るときや階段を上り下りする動作がゆっくりになったりします。症状が進行すると、後ろ足のふらつきや尿漏れ、便が出にくくなることもあります。特に大型犬種でよく見られます。

治療
症状が軽い場合は、ケージレストや抗炎症剤の投与などを行います。
なお、内科療法に反応がない場合や痛みが激しい場合は外科治療が必要となります。

皮膚の異常

肉球・爪・指間などの炎症

お散歩中に異物が刺さった、深爪、重度の皮膚の炎症などが原因になります。

症状
しきりに患部を舐めたり、触られることを嫌がったりするようになることがあります。

治療
こちらは、直接地面に触れる部分なので、軽症に見えても症状が長引くことがあります。
動物病院で診断の後、適切な治療を行うのが良いでしょう。

まとめ

今回は犬の歩行異常について、原因別に解説いたしました。
これらの他にも歩行異常になりうる原因は様々あります。ワンちゃんが発する痛みのサインは個体によって全く違うので察知するのは難しいものですが、少しでも違和感がある場合は迷わず病院に連れて行くことが大切です。
早期発見が治療の近道となることが多いので、歩行異常らしき小さな変化も見逃さないよう日頃から愛犬の歩き方を観察しておくのが良いかもしれませんね。

 

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