こんにちは、レティシアン専属獣医師のCです。
人間が風邪をひいたときやむせたときには咳(せき)が出ます。これと同じように、犬も咳をすることがあります。一時的なものであれば心配はありませんが、咳が続くときや、激しい・湿っぽい咳が出るときは注意が必要です。
今回は、咳の種類や原因、注意したい咳、咳に対しておうちでできることなど、犬の咳についてご紹介させていただきます。
目次
咳の種類
大きく分けて咳は「乾いた咳」と「湿っぽい咳」の2種類があります。咳の原因や進行度によって、乾いた咳が湿っぽい咳に変化することもあります。
乾いた咳
「カッカッ」という気道内に響くようなからっとした咳は、「乾性の咳」「乾いた咳」と言われます。急性の気道炎や気管虚脱、気管支圧迫、異物、胸水などのときに多い症状です。乾いた咳が長く続くと、次第に湿っぽい咳へと移行するケースが多くみられます。
湿っぽい咳
「ゲホゲホ」という咳や痰が絡んでいそうな咳は、気道内に分泌物が存在するタイプの「湿性の咳」「湿っぽい咳」と言われます。慢性の気管支炎、肺水腫、気管支拡張症、フィラリア症、腫瘍などの際に見られます。連続した咳の後に吐くようなしぐさが見られることが多くなります。
咳の原因
咳は、空気の通り道である気道にある咳受容体が刺激されて起こる反射です。異物が入って咳き込むようなものは生理現象ですが、この他にも喉、気管・気管支、肺、心臓、神経などに異常が見られると咳が出ることがあります。犬の咳で考えられる原因の一部をご紹介します。
気道への物理的刺激
咳は気道の中にたまった分泌物や異物を気道の外に排除するための生理現象の1つです。
食べ物を勢いよくたくさん食べたり、お散歩のときにぐいぐいと引っ張り首輪で喉を閉めてしまったりなど、気道への物理的な刺激によって一時的に咳が出ることがあります。こうした咳の場合は心配ないものが多いです。
誤嚥
胃や食道に入っている食べ物や唾液が逆流したり、口と鼻が先天的な異常や病気などで繋がってしまっていたりすると、気道に食べ物や唾液が入ってしまい、咳が出ます。子犬が食事中に毎回咳込む場合は、口蓋裂などの先天的な疾患も考えられるので、獣医師に口の中をチェックしてもらいましょう。
気管虚脱
気管虚脱とは、何らかの原因で気管が歪んだり、押しつぶされたりして呼吸に障害が生じる病気です。乾いた咳や、ガチョウのような「ガーガー」という荒い呼吸音が症状としてあらわれます。また嘔吐をするような動作や、ひどいときは呼吸困難・チアノーゼ(舌の色が紫色に変色する)・意識喪失なども見られます。気管虚脱のはっきりとした原因は分かっていませんが、肥満・遺伝・老化・高温環境・興奮・ストレスなどが関係している可能性があると言われています。
気管虚脱の根本治療には外科的処置が必要ですが、お薬を使って対症療法として咳をコントロールするケースが多いです。お薬には錠剤薬の他にも、ネブライザーという吸入薬を直接気道に届けるための吸入器を使用することもあります。首が圧迫されると咳が出てしまうことが多いので、首輪からハーネスに変更したり、肥満の場合はダイエットが有効なケースもあります。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎とは、胃や口の中から肺に何かしらの物質が入ることで引き起こされる肺炎です。嘔吐や全身麻酔後、重度の歯肉炎、強制給餌、口蓋裂、喉頭麻痺、短頭種気道症候群などから誤嚥を起こす可能性が多いです。
シニア犬の場合、食事の後に誤嚥性肺炎が引き起こされることもあります。咳が出ていなくても呼吸が速いと感じた場合は動物病院で検査をしてもらいましょう。また、介護の中で強制給餌が必要な子は、食事中は寝たきりの状態ではなく、支えてあげながらふせの体勢や、上半身全体をしっかりと起き上がらせた状態にしましょう。
ケンネルコフ
ケンネルコフとは、犬の「伝染性気管支炎」で、非常に感染力の強い呼吸器の病気です。
免疫機構が完全ではない子犬・密集飼育の環境下で感染が拡がりやすく、激しい乾いた咳(合併症がある場合は痰が絡んだような咳)の他に、鼻水、くしゃみ、目やにが症状として見られます。ケンネルコフのみの感染の場合はそこまで重症化することはないと言われていますが、他の感染症もあわせて引き起こすと重症化し、気管支炎や肺炎に繋がります。
ケンネルコフの原因となる病原菌の大部分はワクチンで予防することが可能なため、子犬の頃は特にワクチン接種をおすすめします。
▼ワクチンについてのコラムはこちら
《獣医師コラム》【犬猫の予防注射について】~毎年打っているけど、そもそも予防注射って何を予防しているの?~
心臓病
心臓病が進行して心臓が大きくなると、気管を圧迫したり、押し上げたりして咳が出ます。また、肺に水がたまる「肺水腫」という状態になり、これも咳の原因となります。この場合、早急に治療が必要になります。もともと心臓病を持っているうえに咳が出てきたと感じた場合は、すぐに動物病院へ連れていきましょう。また、早期発見・治療開始が重要なので、定期的な健康診断を受けましょう。
肺の腫瘍(がん)
肺に腫瘍ができて咳が出ている可能性も考えられます。
肺の腫瘍には、肺から発生する原発性肺腫瘍と、体の様々な場所で発生した腫瘍が転移して発生する転移性肺腫瘍に分けられますが、どちらも症状として咳が見られます。
咳の他にも呼吸が荒くなったり、元気がなくなったり、他の疾患と似たような症状も見られます。苦しそうな咳が続く場合、レントゲン検査で肺に何か影がないかどうかチェックしてもらいましょう。
その他
アレルギー・喘息・先天的な構造異常・自律神経の異常などでも咳が出ることがあります。
こんな咳の場合は動物病院へ
下記のような咳が出る場合はすぐに動物病院へ行き、獣医師に相談してみましょう。
・生後6ヶ月未満で咳が出ている
・咳が一時的ではなく続いている
・湿っぽい咳が続いている
・咳の後に舌が紫色になっている
・咳以外の症状(発熱・鼻水・食欲不振)も見られる
・元々別の病気を持っており最近咳が出始めた
獣医師に相談するときは、咳がいつ頃から出ていて、どれくらい続いているのか、咳が出るタイミング、思い当たるきっかけ(太ってきた・引っ越しをしたなど)があれば伝えましょう。診察時には、咳をしている様子を撮影した動画を獣医師に見せると咳の特徴が伝わりやすいです。
動物病院ではまずは問診、喉を軽く刺激するカフテストと呼ばれる触診、呼吸の音を聞く聴診、肺のあたりをトントンと叩いて音を確かめる打診などで状態を探った後に、疑われる病気によってレントゲン、薬剤感受性検査、細菌培養検査、細胞診検査、CT、気管支鏡などの検査を行います。
おうちでできること
動物病院に行くこともとても大切ですが、咳が出にくいように、自宅での過ごし方や生活環境・習慣を工夫してあげましょう。
※かかりつけの動物病院の指示に従ってください。
安静にする
咳がひどい場合はうまく呼吸ができず、酸素不足になる場合があります。安静を心がけ、あまり興奮させないようにしましょう。咳が出ている子にとっては、過度な運動は呼吸困難を引き起こす原因になります。特に心臓病を持っている子や、気管虚脱が進行している子は興奮するような激しい運動は控えましょう。
首輪からハーネスに変更する
お散歩の際にぐいぐいとリードをひっぱってしまう子は、気管を圧迫する首輪から、負担の少ないハーネスへと変更してみましょう。咳の原因が気管にある場合、興奮しやすい散歩中の間だけでも首輪からハーネスに変更するだけで改善が見られることがあります。
生活環境を整える
部屋の温度が低くすぎたり乾燥したりしている場合、気道を痛めやすいと言われています。
暖房機や加湿器を使用してストレスの少ない環境を整え、換気・清掃をこまめに行いましょう。また、屋内での喫煙は避けることも大切です。
栄養をとる
感染が原因の場合は、免疫機構にしっかりと働いてもらい悪化を防ぐために、栄養をしっかりととりましょう。寝たきりの状態の子は、ご飯やお水をあげる際に姿勢を工夫し、誤嚥に注意しましょう。
太りすぎないようにする
過度に太ると首周りの脂肪が気管を圧迫し、咳がさらに出やすくなります。人間とは異なり、犬は運動量で体重をコントロールするのは難しいため、食事量や食事内容で調節してあげましょう。
まとめ
愛犬の咳が続くと、とても辛そうな姿に心が痛みますよね。
感染症の可能性もあるため、愛犬のためにも、他のワンちゃんのためにも早めに動物病院へ行き、早期発見・早期治療をすることをおすすめします。初期症状が分かりにくい病気もたくさんあるので、定期的な健康診断も継続して行いましょう!