こんにちは、レティシアン専属獣医師のKです。
愛犬家の皆様の中には、ワンちゃんの「無駄吠え」が気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「こんなに吠えてしまって、やっぱり近所迷惑になっていないかな…?」
「お散歩のときに会うお友達のワンちゃんは吠えないのに、どうしてうちの子は吠えるのだろう…?」
「これだけ無駄吠えしてしまうなんて、しつけが足りなかったから…?」
このような疑問を持たれることもあるのではないかと思います。
「無駄吠え」という言葉は、人間から見て望ましくないタイミングでワンちゃんが吠えてしまうため生まれたものです。しかし、ワンちゃんの吠え行動には必ず理由があるので、意味もなく「無駄に」吠えるということは基本的にありません。
ワンちゃんの目線に立って、「何に対して吠えているのか」「どのような状況で吠えているのか」「なぜ吠えているのか」を考えて対処してあげることで、吠え行動を減らすことができます。
今回から2回にわたり、ワンちゃんの吠え行動が生じやすいシチュエーションごとに、その理由や無駄吠え対策を解説していきます。
目次
ワンちゃんが吠える理由とは
「吠える」という行動自体はワンちゃんにとって正常なものです。もともとは狩りを行う際の共同作業のためのコミュニケーションや、自分や家族を守るために強化されていった行動だと考えられています。
ワンちゃんが吠える理由は、その状況や個体によって様々ですが、一般的には下記の理由で吠えることが多いといわれています。
・警戒
・不安
・恐怖
・興奮
・痛み
・要求
・縄張りの主張
・危険を知らせるため
・他のワンちゃんの吠える声につられて
・認知機能不全などの病的な理由
ワンちゃんが吠えるときの声の種類と感情
ワンちゃんが吠えるときの声の高さはそのときの感情によって変わります。
・高い声で吠えるときは、痛み・甘え・恐怖・服従などワンちゃんが弱気になっていることが多い
・低い声で吠えるときは、威嚇・攻撃・主張などワンちゃんが強気になっていることが多い
一般的にはこのようなケースが多いようです。
吠え行動と「社会化期」の関係
生後3週~12週齢は、ワンちゃんの「社会化期」と呼ばれており、この時期に経験したできごとが成犬になってからの行動に大きな影響を与えるといわれています。
社会化期に経験した恐怖体験は成犬になっても記憶に残りやすく、社会化期に遭遇したことのない刺激に対しては不安を覚えやすくなるといわれています。
(例)
・社会化期にお留守番をしていた際に雷が鳴った経験から、「お留守番=怖い・不安なもの」と学習してしまい、お留守番の間ずっと吠えてしまう。
・社会化期に他のワンちゃんやオーナー様以外の人間と触れ合った経験のないワンちゃんが、お散歩のときに遭遇したワンちゃんや人間を怖がって吠えてしまう。
吠え行動への対策の基本
具体的な対処方法はシチュエーションごとに異なりますが、ワンちゃんの吠え行動への対策の基本は、以下の流れで行っていきます。
①ワンちゃんが吠えているときの感情を理解する
②吠え始めるきっかけとなる刺激を回避する
③吠えるきっかけの刺激に少しずつ慣れさせる
④刺激に対して「吠える」以外の行動を取るようにトレーニングする
これらの対策を行う際は、下記の注意点を必ず守るようにしてください。
・愛犬が吠えてしまっても、なだめたり叱ったりしないでください。
吠え行動を止めようとして愛犬をなだめてしまうと、「吠えるとなでてくれる・構ってくれる」と勘違いして、吠え行動がより強化されてしまいます。また、吠えている愛犬を叱ってしまうと、愛犬の不安や動揺をより激しくしてしまい、吠え行動が悪化してしまいます。
・吠え行動への対策は、必ずご家族全員が参加し、全員が愛犬に対して同じようにふるまいましょう。
人によって対応が変わってしまうと、愛犬が混乱してしまいトレーニングがうまくいきません。
【1】チャイムに対する無駄吠え対策
「来客や宅配便が届いてチャイム(インターホン)が鳴るたびに愛犬が吠えてしまう」
そうお困りのオーナー様は多いのではないでしょうか。
チャイムに対して吠える行動は、主に以下の原因が考えられます。
(1)他人を追い払うため
ご家族以外の人間が苦手な人見知りのワンちゃんや、他人がおうちの中に入ることを嫌がる縄張り意識の強いワンちゃんの場合、他人を追い払うために吠えることがあります。
吠え続けている間に来客が用事を済ませて帰ることで、「吠えればよそ者を追い払える」とワンちゃんが学習してしまい、チャイムの音が鳴った段階で吠え始めるようになってしまいます。
(2)オーナー様に来客を知らせる警報として
来客という普段と違う状況や、オーナー様が慌ただしくしていることに対してワンちゃんが興奮し、吠え行動に発展します。
ワンちゃんの吠え行動に対してオーナー様が注意したりなだめたりすることで「吠えればもっと構ってもらえる」と学習し、吠え行動がさらに悪化してしまいます。
【対策1】きっかけとなる刺激を弱める
(1)チャイムの音を聞こえにくくする
「チャイムが鳴ったら吠える」という学習が成立してしまっているので、まずはきっかけとなるチャイムの音を消したり、音量を下げたり、チャイム音を変更したりしてみましょう。これだけでも一時的に吠え行動が改善することがあります。
しかし、時間の経過とともに小音量のチャイムの音や新しいチャイム音にも反応するようになったり、来客を知らせる他の刺激(ドアをノックする音、インターホンの画面の点灯など)が新しい吠え行動のきっかけとなったりしてしまうこともあります。
(2)来客時のオーナー様の反応・行動を変える
オーナー様が慌ただしくしている様子が吠え行動のきっかけになっている場合、チャイムが鳴ってもオーナー様が落ち着いてゆっくり行動することを意識すると、吠え行動が減っていくことがあります。
【対策2】チャイムの音に慣れさせる・吠えないようにするトレーニング
(1)練習用チャイム音の準備
チャイム音に慣れさせるために、練習用のチャイム音源を準備します。
使用しているチャイム音を録音したり、ご家族に実際にチャイムを鳴らしてもらったりしてもOKです。動画サイトで「チャイム しつけ用」などと検索していただいてご自宅のチャイム音に似ているものを探してみるのもおすすめです。
また、チャイム音を変更する予定がある場合は、新しいチャイム音で練習しておくことも効果的です。
(2)チャイム音に対する愛犬の反応を変える
他人を追い払うために吠えている場合、こちらの方法がおすすめです。
愛犬にとってチャイム音が「嫌なもの・怖いものの合図」というイメージが定着してしまっているので、おやつなど愛犬が大好きなご褒美を使ってそのイメージを変えていきます。
「愛犬に聞こえているけれど吠えない」くらいの音量でチャイム音を流しながら、愛犬にご褒美を与えます。
小音量でも愛犬が吠えてしまう場合は、チャイム音から愛犬の気をそらすためにおやつやフードを床にばらまいたりするのも効果的です。
音量を少しずつ大きくしながらこれを繰り返し、チャイム音に徐々に慣らしていきます。
チャイム音に慣れてきたら、オーナー様が来客対応のフリをしたりして、実際の来客対応の状況に少しずつ近づけていきます。
なお、実際に来客があった際は対応に時間がかかることが多いので、おやつを詰められるボールなどを使用して、少しずつおやつを食べられるようにするのがおすすめです。
(3)吠え行動以外の望ましい行動をとるようにトレーニングする
オーナー様に来客を知らせる警報として吠えている場合、こちらの方法がおすすめです。
チャイム音が鳴った直後に「ハウス」などの指示を出し、吠えずに指示を守れたらおやつなどのご褒美を与えながらよく褒めてあげましょう。
少しずつ音量を上げながら慣れさせてあげることで、「チャイムが鳴ったときは、吠えるよりもハウス(ケージ)に戻ると良いことがある」と愛犬の学習を上書きすることができます。
「お座り」「待て」などの指示でもOKですが、「ハウス」など少し時間のかかる指示の方が、指示に従っている間にチャイムが鳴り終わる可能性が高いのでおすすめです。
このトレーニングを行う場合は、「ハウス」の指示で使用するケージやクレートが愛犬にとって「安心できる場所」となっている必要があります。あらかじめフードやおやつをケージやクレートの中で与えながら「ハウス」の言葉をかけて慣れさせてあげましょう。
●チャイムが鳴ったときに吠え行動と両立できない他の行動をとらせる
チャイムが鳴った直後に愛犬の大好きなおもちゃなどを遠くに投げて遊ばせましょう。
吠えずにおもちゃで遊んでくれたら、おやつなどを与えながらよく褒めてあげます。
おやつを詰められるボールなどを使用してもOKです。
おもちゃを咬みながら同時に吠えることはできないので、「ハウス」をまだ覚えていないワンちゃんはこちらの方法がおすすめです。
【2】お散歩中の無駄吠え対策
「お散歩中に他のワンちゃんや人間に遭遇するたびに愛犬が吠えてしまって困っている」というオーナー様も多いでしょう。
他のワンちゃんや人間に対して吠える場合は、以下の原因が考えられます。
(1)他のワンちゃんや人間を追い払おうとしている
子犬の頃に他のワンちゃんやご家族以外の人間との交流が少なくて、犬見知り・人見知りになってしまっていたり、過去に他のワンちゃんに咬まれたり吠えられてしまったりした経験がトラウマになってしまっているような場合、相手を追い払うために吠えることがあります。
吠えている間に相手が遠ざかると、「吠えたら苦手なワンちゃん・人間を追い払える」と学習し、吠え行動が強化されます。
相手を追い払うことが目的の場合、吠え行動が始まる前に不安や恐怖のサイン(後ずさる・逃げようとする・耳を後ろに引く・しっぽを下げるなど)を示すことが多いので、愛犬の様子をよく観察してあげましょう。
(2)挨拶がしたくて興奮している
犬見知りとはまったく逆のパターンで、フレンドリーな性格のため他のワンちゃんや人間と挨拶がしたくて興奮してしまい、興奮がピークに達すると吠え行動が始まります。
愛犬が吠えたときにオーナー様がその要求に応えるように相手に近づいてしまうと、「吠えれば他のワンちゃん・人間に挨拶しに行ける」と学習し、吠え行動が強化されます。
【対策1】他のワンちゃん・人間に慣れさせる
犬見知り・人見知りから相手を追い払おうとする吠え行動の場合は、少しずつ他のワンちゃん・人間に慣れさせてあげる必要があります。
不安・恐怖が原因で吠えている場合、「他のワンちゃん・人間と友好的に挨拶をできるようになる」ことは現実的に難しいため、「吠えずに適度な距離をとってすれ違える」ことを目標にしましょう。
まずは愛犬がどのような状況で吠えるのか観察し、傾向を把握しましょう。
同じ散歩コースなのに吠えるときと吠えないときがある場合、そのときの状況を比較すると傾向がつかみやすいかと思います。
・ワンちゃんに対してだけ吠える
・人間に対してだけ吠える
・ワンちゃんと人間が一緒にいると吠える
・吠える場所(公園で吠える、狭い道ですれ違うときに吠える など)
・吠える時間帯(朝だけ、夜だけ など)
・吠え始める距離
・その他、吠え始めるときの状況は?
犬見知りなのか人見知りなのか、他の原因が考えられるのか。
愛犬が吠えるときの傾向がつかめたら、まずはできるだけその状況を避けてお散歩をするようにしましょう。
落ち着いてお散歩ができるコース・時間帯などを見つけたら、少しずつ他のワンちゃん・人間に慣れさせるトレーニングを行っていきます。
まずは、「愛犬が他のワンちゃん・人間の存在を認識しているけれど吠えない」程度の距離で、愛犬の名前を呼びながら相手をまったく気にしなくなる距離まで離れましょう。愛犬が相手に吠えずに落ち着いてその場を離れることができたら、よく褒めてあげましょう。
慣れてきたら少しずつ他のワンちゃん・人間との距離を近づけていきます。一気に距離を縮めすぎてしまうと怖がってしまう可能性があるので、相手と十分な距離をとれない狭い道は避けるようにしましょう。
【対策2】吠える以外の行動に置き換えるようトレーニングをする
相手に挨拶がしたくて興奮から吠えてしまうワンちゃんは、こちらのトレーニングを行いましょう。
まずは、他のワンちゃん・人間がいない状況で「お座り」や「待て」ができるように練習しておきます。
次に、「愛犬が他のワンちゃん・人間の存在を認識しているけれど吠えない」距離で同様に「お座り」や「待て」の指示を出し、吠えずに指示に従ってくれたらおやつなどのご褒美を与えながらよく褒めて、ゆっくりと相手に近づいていきましょう。
吠えてしまった場合は、愛犬を叱ったりなだめたりせずに、静かにその場から離れるようにしましょう。
このトレーニングを続けてあげることで、「お座りをして静かに待っていたら相手に挨拶できる」「吠えると挨拶しにいけない」と学習してくれるようになります。
【3】掃除機に対する無駄吠え対策
「掃除機の電源を入れると愛犬が吠えてしまってなかなか掃除が進まない」というオーナー様もいらっしゃるのではないでしょうか。
どうやら、スティック型掃除機よりもキャニスター型掃除機に対して吠えてしまうワンちゃんが多いようです。
掃除機に対して吠える場合は、以下の原因が考えられます。
(1)掃除機の音や動きが怖くて、追い払おうとして吠えている
大きな音に敏感なワンちゃんにとって、聞きなれない大きな音がする掃除機が恐怖の対象になってしまうことがあります。
吠え行動をやめさせようとオーナー様が掃除機のスイッチを切ると「吠えたら怖い音がしなくなる」と学習し、吠え行動が強化されてしまいます。
(2)掃除機を遊び相手だと思っている
キャニスター型掃除機の不規則な動きが面白く、遊びに誘うために吠えている場合があります。もともと不規則な動きをしている掃除機に対し「吠えたら不規則に動いてくれてもっと楽しくなる」と学習し、吠え行動が強化されてしまいます。
【対策1】きっかけとなる刺激を避ける
愛犬のお散歩に行っている間にご家族に掃除をお願いしたり、掃除中は愛犬を他の部屋に避難させたりして、掃除機の存在に愛犬が気づかないようにしてあげましょう。
【対策2】掃除機に慣れさせるトレーニング
愛犬が掃除機を怖がってしまう場合は、掃除機の姿や音に少しずつ慣らしてあげる必要があります。
まずは、電源を切った掃除機の前で愛犬の名前を呼びながら、大好きなおやつなどのご褒美を与えて掃除機の見た目に慣れさせてあげます。
その後、吸引力(音)を一番弱くした状態で掃除機の電源を入れ、掃除機を動かさず音だけに慣れさせてあげます。
目の前で掃除機の電源を入れると愛犬がびっくりしてしまう可能性があるため、初めはご家族に協力してもらい、愛犬におやつを与えてもらいながら隣のお部屋で掃除機の電源を入れるようにしましょう。
掃除機の音にも慣れてきたら、少しずつ普段の掃除機の使い方に近づけていきます。
【対策3】掃除機以外のものに関心をもってもらう
愛犬が掃除機を遊び相手だと思っている場合は、こちらのトレーニングを行ってください。
掃除機よりも魅力的なおもちゃ、フード・おやつを入れられるボールなどを用意して、掃除機への興味を相対的に減らしていきます。
これらのグッズは掃除機をかけるときにだけ愛犬に与えるようにすると、より効果的です。
こちらの場合でも、掃除機の電源を切った状態からトレーニングを開始して、少しずつ普段の掃除機の使い方に近づけていってあげましょう。
まとめ
今回は、ワンちゃんの無駄吠えが起こりやすいシチュエーションとして、
【1】チャイムに対する無駄吠え対策
【2】散歩中の無駄吠え対策
【3】掃除機に対する無駄吠え対策
の3つを解説させていただきました。
次回のコラムでは、
【4】お留守番中の無駄吠え対策
【5】食事中の無駄吠え対策
【6】遊びに誘う・遊んでいる最中の無駄吠え対策
について解説いたします。
コラムの中でご紹介していない状況でワンちゃんが吠えてしまう場合でも、「何で吠えているのだろう?」と考えながら状況を分析してあげると、対処法が見えてくるかもしれません。科学者になったような気持ちで、愛犬の気持ちを研究してみてあげてください。