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《獣医師コラム》歯並びの悪さが命取りに!?【うさぎの不正咬合】の原因や予防など解説!

こんにちは。うさぎが大好きなレティシアン専属獣医師のJです。

ペットオーナーの皆様、ペットの「歯並び」について考えてみたことはありますか?

人間と同じように、ワンちゃん・ネコちゃんでもたまに歯並びの悪い子がいるのですが、歯並びの悪さが直ちに日常生活の大きな支障となることはほとんどありません。

しかし、うさぎの場合は違います。

うさぎでは「歯並びの悪さが命にかかわることもある」ということをご存じでしょうか…?

今回は、そんなうさぎの歯の特徴や、「不正咬合」という病気について解説いたします。

うさぎの歯について

うさぎの生物学的分類

うさぎは、その長い前歯(切歯)が特徴的なことから、ネズミなどと同じ「げっ歯目」の一種と勘違いされてしまうことが多いのですが、実はげっ歯目とは別の「ウサギ目」に分類される動物です。

うさぎは、げっ歯目の動物と同じように、生涯をとおして歯がずっと伸び続ける「常生歯 (じょうせいし)」を持っているのですが、ウサギ目固有の特徴として、上顎切歯の裏に小さな2本目の切歯が生えていて、上顎切歯のみ前後2本ずつ歯が生えています。

この特徴から、ウサギ目を「重歯目」と呼ぶこともあります。

歯の生え変わり

うさぎの歯は生涯伸び続けるのですが、人間やワンちゃん・ネコちゃんと同じく、子供の頃に乳歯から永久歯へと歯の生え変わりが行われます。

しかし、切歯はお母さんのおなかの中にいる間に永久歯に生え変わることが多く、臼歯も生後30日ほどで生え変わるので、離乳が完了してペットとしておうちにお迎えする頃には、すべての歯が永久歯に生え変わっていることが多いです。

うさぎの前歯(切歯)

人間やワンちゃん・ネコちゃんの歯では、全身で最も硬い組織であるエナメル質が歯冠部(歯肉より上に見えている部分)のすべてを覆っているのに対し、うさぎの切歯では頬側だけにエナメル質が存在します。

そのため、うさぎの切歯は頬側が舌側よりも削れにくく、常に頬側が鋭く尖るようになっています。

上顎切歯は約45°、下顎切歯は約30°の角度を保っていて、この鋭い切歯を左右に動かすことによって、牧草などの硬い繊維を咬み切ることができます。

うさぎの奥歯(臼歯)

切歯で小さく咬み切った食べ物はその後、臼歯で細かくすりつぶして、消化しやすい状態にしてから飲み込みます

臼歯の咬合面(歯と歯が咬みあう面)も完全に平らではなく、10~15°程度の傾斜がついていて、上顎臼歯は頬側が長く、下顎臼歯は舌側が長くなっています。

うさぎの歯の使い方

うさぎはこれらの切歯・臼歯を器用に使い、

 

・切歯で食べ物を細かく切断する
・切歯で食べ物を細かく切断する
・飲み込む

 

という3つの過程を経て、草や木など繊維質の多い食べ物を食べています。

咀嚼の過程で切歯・臼歯ともに何度も繰り返しこすられるため、うさぎの歯は食べ物を咬むたびに少しずつ削れていきます。

歯が伸びるスピードと削れるスピードが釣り合うことによって、うさぎの健康な歯は維持されています。

伸びるのと同時に削れていくので見た目には分かりにくいのですが、うさぎの歯が伸びるスピードはとても速く、1年間で約10cmも伸びているといわれています。

不正咬合とは

不正咬合(ふせいこうごう)とは、「咬み合わせ(咬合)が異常(不正)な状態になってしまう」、つまり、“歯並びが悪くなってしまった状態”のことを言います。

人間やワンちゃん・ネコちゃんでも不正咬合は珍しい病気ではありませんが、歯並びが悪くても日常生活に大きな影響が出ることはあまりありません。

しかし、生涯歯が伸び続けるうさぎにとって、不正咬合は進行すると命にかかわることもある、とても危険な病気です。

不正咬合で咬み合わせが悪くなると、適切に歯が削られなくなり、本来伸びるべきではない方向に歯が伸び続けてしまいます。この状態を「過長歯」と呼びます。

うさぎは健康維持のために自分の盲腸便(盲腸内の微生物によって作られる、ビタミンやタンパク質を豊富に含む特殊な便)を食べる必要があるのですが、咬み合わせがずれたまま歯が伸び続けると、この盲腸便をうまく食べられなくなってしまいます。

不正咬合によって牧草などの食べ物や盲腸便をうまく食べられない状態が続くと、栄養失調や消化器疾患の原因となってしまいます。

また、歯が伸びすぎてしまうと口の中に刺さってしまったり、歯の根っこを圧迫したりして、細菌感染や炎症の原因となります。

歯の根っこの部分に細菌感染を起こすと頬が腫れてしまうことがあり、ひどい場合には、炎症組織やそこに溜まった膿によって眼球が押し出され、目が飛び出してしまうこともあります。

これらの病態が進行するとうさぎの命にかかわることもあるため、大本の原因である不正咬合を起こさないように日頃からの注意が必要です。

不正咬合を疑う症状・行動

・食欲はありそうな様子なのに食べない
・よだれが出る
・食べこぼしが目立つ
・ペレットばかり食べて牧草だけ食べなくなるなど、偏食・食べ物の選り好みが目立つ
・歯ぎしりが増える

 

これらの症状がみられる場合は、不正咬合をはじめとする口腔内トラブルが疑われます。なるべく早く動物病院でお口の中をチェックしてもらいましょう。

不正咬合の原因

不正咬合の原因は様々で、生まれ持った先天的なものと、飼育環境などに影響される後天的なものに分けられます。

先天的要因

ロップイヤーやネザーランドドワーフなどの短頭種(鼻が短い品種)では、遺伝的に上顎が短くなりやすく、下顎がしゃくれてしまうことがあります。下顎がしゃくれていると上下の切歯の位置がずれ、不正咬合を起こしてしまいます。

先天的な不正咬合のあるうさぎでは、その他にも頭蓋骨の形態的な異常がみられることが多く、鼻涙管閉塞など他の病気を併発することもあります。

また、先天的な要因以外にも、様々な後天的要因によって不正咬合を引き起こすこともあります。

不適切な食事

うさぎは本来草や木の皮、根っこなどを食べて生活をしていて、これらの食べ物を消化可能な大きさにすりつぶすため、長い時間をかけて咀嚼を行います。ペットとしてうさぎを飼育する場合も、牧草を切らさないように主食として自由に与え、栄養補助のためにペレットを与えるのが適切なのですが、牧草の不足やペレットの与えすぎによって咬耗が不十分になってしまうと、歯が伸びすぎて不正咬合を引き起こしてしまいます。

外傷

高い所から落下したり、人間に踏まれたり、ケージの金網などの硬いものをかじったりすると、歯が欠けてしまうことがあり、衝撃が強いと歯が折れてしまうこともあります。歯が欠けたり折れたりすると咬み合わせがずれてしまい、不正咬合の原因となります。

代謝性骨疾患

くる病、骨粗しょう症、栄養性骨異栄養症、二次性上皮小体機能亢進症などの病気によってカルシウム代謝に異常が生じることで不正咬合を発症することもあります。

これらの病気は加齢に伴い発症することが多いので、シニアのうさぎは体調の変化や食生活の変更がなくても、動物病院で定期的にお口の中をチェックしてもらいましょう。

不正咬合の治療

不正咬合を起こした歯は自然に削れることがないため、動物病院で伸びすぎた部分を切ったり削ったりする処置が必要となります。

切歯の処置は麻酔なしでも実施できることが多いのですが、臼歯の処置は全身麻酔をかけて実施するのが一般的で、1回の処置でうさぎの体にかかる負担も大きくなってしまいます。

また、一度不正咬合を発症した歯はこれらの処置を行ってもしばらくすると再発してしまい、正常な状態に戻ることはめったにありません。

そのため、生涯にわたって動物病院での定期的な処置が必要となってしまいます。

個々の歯の状態によって変わりますが、3~4週間に1回くらいのペースで通院して歯の処置を行うのが一般的です。

そのため、不正咬合を発症しないように、日常生活のなかで予防をすることが重要になります。

不正咬合を予防するには

適切な食事

繊維質の多い牧草を切らすことなく与え、栄養補助のために朝晩少量のペレットを与える食生活を徹底しましょう。

また、硬すぎるペレットは咀嚼時に臼歯にかかる負担が大きく、臼歯が欠けたり折れたりする原因となります。歯への負担がかかりにくいソフトタイプのものがおすすめです。

外傷の予防

落下事故を防ぐために、高い所に登れないようにおうちの中の環境を整備してあげましょう。

また、ケージの金網をかじる癖をつけないような注意も必要です。

「ケージの外に出たい!」「ごはん・おやつが食べたい!」などオーナー様におねだりするために、うさぎがケージをかじって音を立てることがあります。

その度にオーナー様がうさぎの要求に応えてしまうと、「ケージをかじると外に出してもらえる」「ケージをかじるとごはん・おやつをもらえる」と学習してしまい、ケージをかじる行動が悪化してしまいます。

何かを要求するためにケージをかじる行動がみられる場合は、その行動を無視して、一時的にその場から立ち去って人間の姿がうさぎから見えないようにしてください。その後しばらくして、うさぎが落ち着いてからケージを開けるようにしましょう。こうすることで「ケージをかじったら誰もいなくなってしまい、自分の要求もとおらない」ことを覚えてくれます。

「物をかじる」という行動自体はうさぎに本来備わっている正常な行動であり、ストレス発散などのために行うことがあります。

硬すぎる木製のおもちゃは歯に負担をかけてしまう可能性があるので、乾燥牧草で作られたおもちゃなど、歯に負担のかからないものを用意してあげましょう。

定期健診

うさぎの切歯は日常生活の中でも確認しやすいため、切歯の不正咬合はオーナー様が気づくケースも多いものです。しかし、臼歯となると自宅でチェックするのが難しく、オーナー様が気づかないうちに不正咬合が進行してしまっているケースがあります。

うさぎが元気そうでも徐々に不正咬合は進行しています。定期的に動物病院でお口の中のチェックをしてもらうことが大切です。

まとめ

今回は、うさぎの不正咬合について解説させていただきました。

草食動物であり、一生伸び続ける常生歯の持ち主であるうさぎは、私たちが思うよりずっとデリケートです。歯並びに限らず、目に見える体調の変化が出てから動物病院へ連れて行っていくと、すでに病気が進行してしまっていることも多いため、日頃から病気になりにくい環境づくりを心がけ、動物病院で定期健診を受けることがとても重要です。

現在うさぎと一緒に暮らしている方も、これからうさぎをお迎えする方も、うさぎの体や病気についての知識をしっかりと身につけて、癒しと幸せいっぱいの生活をお過ごしください!

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