こんにちは。レティシアン専属獣医師のKです。
ワンちゃん・ネコちゃんと生活をしていて、「尿」のトラブルに悩まされたオーナー様も多いのではないでしょうか?
尿の回数が増えたり、尿の色やニオイがいつもと違ったり、キラキラと反射する砂のようなものが尿に混じっていたり…。
ワンちゃん・ネコちゃんが辛そうに排尿している姿や、尿に血が混じっている様子を見ると心配になってしまいますよね。
これらの尿のトラブルは主に「下部尿路疾患」と呼ばれる病気によって引き起こされます。
今回のコラムでは、下部尿路疾患の概要と、ワンちゃん・ネコちゃんで特に発症の多い3つの病気について解説していきます。
目次
「下部尿路」って、どこ?
腎臓と尿管(腎臓から膀胱へ尿を送る管)を合わせて「上部尿路」と呼ぶのに対し、膀胱と尿道を合わせて「下部尿路」と呼びます。
膀胱(ぼうこう)
膀胱は、腎臓で作られた尿を一時的に溜めておく袋のような臓器です。
伸縮性のある細胞でできていて、水風船のように膨らんだり縮んだりすることで尿を溜めたり排泄したりすることができます。
尿道(にょうどう)
膀胱に溜めた尿を体の外に排泄するための管を尿道といいます。
メスと比べてオスの方が細くて長い尿道を持つため、後述する「尿路結石」などが詰まりやすいとされています。
下部尿路疾患って、どんな病気?
「下部尿路疾患」は一つの病気ではなく、膀胱や尿道で生じる数多くの病気の総称です。
感染症や炎症、結石、腫瘍など様々な原因によって発症するのですが、いずれの場合も同じような症状が出ることが多く、動物病院を受診して正しく診断・治療をおこなわないと症状がなかなか治まらないことがあります。
こんな仕草があったら要注意!下部尿路疾患の主な症状
・ポタポタと少しずつ排尿する
・排尿時に痛がる様子がある(鳴く、陰部をなめる、おそるおそる排尿する)
・トイレには行くのに、尿が出ない
・尿に血が混じる
・尿が濁っている
・尿に砂や石のようなものが混じる
・尿がキラキラしている
・頻尿
・粗相、不適切な場所での排尿
ワンちゃん・ネコちゃんに多い下部尿路疾患
下部尿路疾患のなかでも、ワンちゃん・ネコちゃんでは下記の病気の発症が多く、複数の病気を併発していることもあります。
・尿石症(尿路結石)
・下部尿路感染症
・猫の特発性膀胱炎
尿石症(尿路結石)
尿に含まれるミネラルが結晶化し、石のようになったものを「尿路結石」と呼び、尿路結石によって体調に変化が現れた状態を「尿石症」と呼びます。
膀胱で作られた結石は、膀胱や尿道の粘膜を物理的に刺激することで炎症を起こしたり、尿道を詰まらせて尿が出なくなってしまったりすることがあります。
結石があっても体調に変化がなく目立った症状が現れない場合もあれば、尿路を詰まらせてしまうことで急性腎障害を引き起こし、命に関わるようなケースもあります。
(急性腎障害については、前回のコラムをご参照ください。)
尿石症の原因・発症リスク
尿石症の発症には、下記の要因が関係しているといわれています。
・食事
・品種、遺伝
・年齢
・水分の摂取不足
・排尿障害
・尿路感染症
・代謝の異常
など
尿路結石の種類
尿路結石は、結石を構成している成分によって、様々な種類に分けられます。
ワンちゃん・ネコちゃんで特に発症が多いのが「ストルバイト結石」と「シュウ酸カルシウム結石」の2つで、これらだけで尿石症の70%以上を占めるともいわれています。
①ストルバイト結石(リン酸アンモニウム・マグネシウム結石)
ストルバイト結石は、リンやマグネシウムといったミネラルに、腎臓で作られたアンモニウムイオンが結合することで作られます。
食事中のタンパク質・リン・マグネシウムの濃度が高かったり、尿がアルカリ性に偏っていたりすると発症しやすいとされています。
ストルバイト結石は、療法食やお薬を使って溶かすことができます。
しかし、結石が溶けるまでは時間がかかるため、治療に数ヶ月の期間を要することが多いです。
●ワンちゃんのストルバイト結石
オスよりもメスで発症が多く、発症の7~8割がメスというデータもあります。
シー・ズー、ミニチュア・シュナウザー、ウェルシュ・コーギーなどの犬種で発生が多いといわれています。
下部尿路感染症が原因となって発症することが多く、抗菌薬を使った治療と療法食を併用して対処するケースが多いです。
●ネコちゃんのストルバイト結石
ネコちゃんの場合は、性別による発症率の差はほとんどないようです。
ワンちゃんと違って下部尿路感染症との関連は少なく、療法食を使った食事管理がメインの治療となります。
②シュウ酸カルシウム結石
シュウ酸カルシウム結石は、シュウ酸とカルシウムが結合して作られる結石なのですが、その詳細なメカニズムは解明されていません。
他の尿路結石と比較して発症年齢が高い傾向にあり、6~10歳での発症が特に多いといわれています。
ストルバイト結石のように溶かすことができないため、根本的な治療をおこなうにはカテーテルや手術による結石の摘出が必要になってしまいます。
●ワンちゃんのシュウ酸カルシウム結石
メスよりもオスでの発症が多く、7割程度がオスだといわれていて、発症年齢もオスの方が低い傾向にあります。
シー・ズー、ミニチュア・シュナウザー、ラサ・アプソ、ヨークシャー・テリアなどの犬種で発生が多いとされています。
●ネコちゃんのシュウ酸カルシウム結石
ワンちゃんほど顕著ではありませんが、ネコちゃんもオスでの発症が多いといわれています。
ペルシャ、ヒマラヤン、スコティッシュ・フォールドなどの猫種では発症リスクが高いとされています。
③その他の結石・混合結石・複合結石
ストルバイト結石・シュウ酸カルシウム結石以外にも、尿酸塩結石・シスチン結石・シリカ結石など、様々な結石が生じる可能性があります。
ストルバイト結石のように療法食やお薬で溶かすことができる結石と、シュウ酸カルシウム結石のように溶かすことのできない結石があり、結石の種類によって治療法が変わることがあります。
溶かすことができる結石
ストルバイト結石、尿酸塩結石、シスチン結石など
溶かすことができない結石
シュウ酸カルシウム結石、シリカ結石など
また、1つの結石の中に複数の成分が混在していることも多く、そのような結石を「混合結石」や「複合結石」と呼びます。
溶かすことができないシュウ酸カルシウムやシリカなどの成分が混在している場合、療法食やお薬を使っても結石の一部しか溶かすことができず、根本治療のためにはカテーテルや手術での摘出が必要になることがあります。
尿路結石の治療
緊急性の高い場合を除き、ストルバイト結石などの溶かすことができる結石は、できるだけ療法食やお薬を使って内科的に治療することが推奨されています。
ワンちゃん・ネコちゃんの生活の質を著しく低下させたり、尿道を詰まらせたりしてしまう可能性の高い結石に関しては、カテーテルや手術での摘出をおこないます。
また、溶かすことのできない結石であっても、症状や日常生活への支障がなく、尿路を詰まらせてしまう可能性の低い場合は、特に治療を行わず経過観察とする場合もあります。
結石がどの成分で構成されているかを知るには、結石そのものを専門機関で検査してもらう必要があります。一般的には尿検査をおこなって結石の主成分の推定や細菌感染の有無をチェックし、療法食や抗菌薬による内科治療を開始することになります。
その後、数週間おきにレントゲンや超音波検査によって結石の大きさをチェックし、治療効果の判定をおこないます。
尿路結石の予防
尿石症は、食事や環境の変化、加齢や体調の変化など様々な要因によって発症する可能性があり、再発することも多い病気です。そのため、特に予防が重要になります。
食事管理
尿石用療法食は、結石の原因になりやすいミネラルなどの栄養バランスが調整されています。
過去に尿石症を発症したことがある場合、再発リスクを軽減するために動物病院の指示に従って療法食を与えることが推奨されています。
また、食事に含まれるミネラルが過剰になると尿石症リスクが高まるため、フード以外の食事やおやつを与える際には注意が必要です。
野菜類にはミネラルが豊富に含まれているので、尿石症を発症したことのあるワンちゃん・ネコちゃんにはフードのトッピングなどにも使用しない方が安心でしょう。
水分をしっかりと摂る
水分をしっかり摂ることで尿が薄まり、新たな結石が作られることを予防できます。
また、尿の量が増えることで排泄回数も増え、ミネラルが結石になる前に体の外に出すことができます。
トイレを我慢させない
尿が膀胱に溜まっている時間が長いほど、尿石症リスクは高まります。
屋外でしか排尿しないワンちゃんの場合、天気が悪くてお散歩に行けない日にも排泄のためこまめにお外に連れて行ってあげたり、屋内でも排尿できるようにトレーニングしたりすることをおすすめします。
肥満の予防
肥満のワンちゃん・ネコちゃんでは尿石症のリスクが高まることが分かっています。
避妊・去勢手術を受けるとホルモンバランスの変化などにより太りやすくなってしまうことが多いので、体型の変化や尿の様子の変化には注意しましょう。
下部尿路感染症
外部から侵入した病原体が、尿道や膀胱に感染することで炎症を起こしてしまう病気です。
細菌感染によるものがほとんどで、そのなかでも大腸菌による感染症の割合が最も多いといわれています。
ワンちゃんは下部尿路感染症になりやすく、約14%のワンちゃんが生涯のうち一度は下部尿路感染症にかかると推測されています。
ワンちゃんでもネコちゃんでも、メスでの発症が多くみられます。これは尿道が太くて短いため細菌が侵入しやすいためだと考えられています。
下部尿路感染症の原因
本来、ワンちゃん・ネコちゃんの体は、排尿することで物理的に細菌を洗い流したり、免疫システムの働きによって細菌を排除したりして、下部尿路感染症の発症を防いでいます。
何らかの原因でこれらの働きに異常があると、下部尿路感染症を発症しやすくなってしまいます。
・尿路結石や腫瘍によって尿道が塞がれてしまい、排尿しづらくなる
・排尿に関わる神経の働きが悪くなる
・結石などにより、尿路の粘膜が傷ついてしまう
・免疫力の低下(病気やお薬の作用など)
など
下部尿路感染症の治療
抗菌薬による治療をメインにおこないます。
免疫力を低下させてしまう病気や排尿障害を引き起こすような病気がある場合は、そちらの病気の治療も合わせておこなう必要があります。
動物病院で抗菌薬を処方された場合は、症状が良くなったとしても特別な指示がない限りお薬をすべて飲み切るようにしましょう。
途中で投薬をやめてしまうと、細菌をやっつけきれず下部尿路感染症が再発してしまったり、細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得して同じお薬が効かなくなってしまうことがあります。おなかがゆるくなるなど、抗菌薬を飲み始めてからワンちゃん・ネコちゃんの体調に変化が出る場合は無理に投薬を続けず、動物病院に相談しましょう。
下部尿路感染症の予防
下部尿路への感染を予防することは難しく、ワンちゃん・ネコちゃんの負担を減らすために早期発見・早期治療に努めることが重要です。
尿の見た目やニオイの変化に気付いたら、早めに動物病院を受診するようにしましょう。
また、背後に別の病気が隠れている場合は、その病気を治療することで発症・再発リスクを下げることができます。体調に気になることがなくても定期的な健康診断を受け、尿検査と合わせて全身のチェックをしてもらうことをおすすめします。
猫の特発性膀胱炎
ネコちゃんの膀胱炎のうち、尿石症や尿路感染など特定の原因が存在しない・特定できないものを「猫の特発性膀胱炎」と呼びます。ネコちゃんの下部尿路疾患のうち、約60%がこの特発性膀胱炎だともいわれています。
細菌感染や結石などがあるわけではないので、症状が長く続くことは少なく、無治療でも85%程度の症例で数日以内に改善するとされています。
しかし、猫の特発性膀胱炎は再発率が高く、発症・再発リスクを減らすために生活環境の整備などの対策をすることが重要になります。
猫の特発性膀胱炎の原因
発症メカニズムには不明な点が多いのですが、以下の要因の関与が疑われています。
・膀胱粘膜のバリア機構の異常
・交感神経系の乱れ
・内分泌系の異常
・環境ストレス
・尿の濃度の上昇
猫の特発性膀胱炎の治療・予防
猫の特発性膀胱炎への対策としては、「ストレスを感じにくい環境づくり」と「尿を薄くして膀胱への刺激を弱めること」の2つが特に重要だと考えられています。
①環境ストレスへの対処
猫の特発性膀胱炎の発症には環境ストレスが大きく関わっていると考えられています。なかでも「トイレ」に問題があるケースが多いようです。
そのため、トイレをはじめとする身の回りの生活環境を整えてあげることが、猫の特発性膀胱炎の治療・予防に有効と考えられます。
・トイレの数を飼育頭数+1個以上用意する
・トイレ・寝床・食器の間隔をあける
・トイレを毎日掃除し清潔に保つ
・カバーのないオープンタイプのトイレを使用する
・トイレの砂は無香料の固まるものを使用する
・トイレの砂を定期的に全交換する
・(多頭飼育の場合)食器を1頭ずつ専用のものを用意する
・ゆっくり落ち着いて食事を摂れる環境を整備する
・常に新鮮な水を飲めるようにする
・キャットタワーや身を隠せる場所を用意する
・ベッドやハウスを飼育頭数+1個以上用意する
・自由に運動できる環境を作ってあげる
・自由に爪とぎができる環境を作ってあげる
・タバコやアロマオイルなど、ネコちゃんのストレスになる香りをつけない
など
②水分の摂取量を増やす
水分を多く摂取することで、尿中の膀胱粘膜を刺激する物質の濃度が下がり、膀胱炎リスクを軽減できると考えられています。
③食事療法
抗ストレス効果が期待される成分を含んだ療法食が販売されていて、猫の特発性膀胱炎に使用されることがあります。獣医師の指導に従ってネコちゃんに与えてみると良いかもしれません。
まとめ
下部尿路疾患は、病状によって特に目立った症状が出ない場合もあれば、命に関わることもあるような病気です。結石が尿路を詰まらせたり、炎症によって尿路が完全にふさがってしまったりすると、急性腎障害に発展してしまう可能性もあります。下記のような様子が見られる場合は、すぐに近くの動物病院を受診するようにしましょう。
・尿が全く出ない
・トイレに行って排尿姿勢を取るが、全く尿が出ない・ポタポタとしか出ない
・おなかを触ると、パンパンになった膀胱がしこりのように触れる
・ぐったりしている
また、一度改善しても再発する病気が多いため、尿検査を含む健康診断を定期的に受けて早期発見・早期治療に努めることが重要です。尿の見た目やニオイ、排尿の様子などを普段からよく見てることをおすすめします。