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≪獣医師コラム≫【泌尿器疾患①】ワンちゃん・ネコちゃんの「腎臓病」について

こんにちは、レティシアン専属獣医師のKです。

ペットフードの品質向上やペットの飼育環境の改善、獣医療の発展など、ペットを取り巻く環境は日々進歩しています。それに伴い、ここ数十年、ワンちゃん・ネコちゃんの平均寿命も延び続けています。

シニアのワンちゃん・ネコちゃんに多い病気の一つに、泌尿器疾患の「腎臓病」が挙げられます。特にネコちゃんでは慢性腎臓病の発症が多く、シニア猫の3頭に1頭が慢性腎臓病を発症しているともいわれています。

今回は、腎臓の機能から腎臓病の種類、食事管理など、ワンちゃん・ネコちゃんの代表的な泌尿器疾患である腎臓病について解説いたします。

腎臓ってどんな臓器?

「腎臓は尿を作る臓器である」ということはご存じの方が多いかと思いますが、「何のために腎臓が尿を作っているのか」という理由はご存じでしょうか?

腎臓が尿を作るのは「体に不要なものを体の外に排出するため」です。

腎臓に流れ込んできた血液から不要なものを取り除いて尿が作られますが、この過程で体内の水分量を調節したり、ミネラルバランスを整えたり、体の酸性/アルカリ性のバランスが極端に偏ってしまわないように調節したりしています。

その他にも、骨髄が赤血球を作るよう指令するエリスロポエチンというホルモンを作ったり、血圧を調整するレニンというホルモンを作ったり、骨を丈夫にする活性型ビタミンDを作ったりもします。

このように、腎臓は体内の老廃物の除去や各種ホルモンや酵素の産生に関わることでワンちゃん・ネコちゃんの健康を守っているのです。

これらの機能はどれも生きていくために欠かせないもので、腎臓の機能がストップしてしまうと、生命を維持することができなくなってしまいます。

腎臓の機能

・水分量の調節
・ミネラルバランスの調節
・酸塩基平衡(酸性/アルカリ性のバランス)の調節
・老廃物の除去
・ホルモンや酵素を作る(赤血球の産生を促進・血圧の調節・骨を丈夫にする)
など

腎臓が悪くなると何が起こる?

腎臓病を発症してしまうと、こうした腎臓の機能がうまく働かなくなってしまい、様々な症状を引き起こします。

腎臓病に関連する症状

・水分量が調節できず、脱水してしまう
・ミネラルバランスが乱れてしまう(電解質異常)
・体が酸性に偏ってしまう(代謝性アシドーシス)
・老廃物・毒素が体内に溜まってしまう(尿毒症)
・赤血球を作れず、貧血になってしまう
・血圧が高くなってしまう
・骨がもろくなってしまう
など

ネコちゃんに腎臓病が多いのはなぜ?

ネコちゃんは他の動物と比べて、腎臓病の発症が多いことが知られています。

慢性腎臓病の発症割合は、ワンちゃんでは「10頭に1頭」といわれているのに対し、ネコちゃんでは「3頭に1頭」といわれています。

なぜネコちゃんには腎臓病が多いのでしょうか。

その理由はまだ解明されていない部分が多いのですが、腎臓の中のネフロン(腎単位)の数が少ないことが関係しているといわれています。

腎臓は「ネフロン(腎単位)」と呼ばれる構造が集まって構成されています。
ネフロンは糸球体・ボーマン嚢・尿細管という組織が集まったもので、腎臓の機能の多くがこのネフロンでおこなわれています。

腎臓のネフロンは普段からそのすべてが働いているわけではなく、一部のネフロンの機能が低下してしまっても大丈夫なように、多くのネフロンが予備として存在しています。

しかし、腎臓1つあたりのネフロンの数は動物種によって大きく異なり、人間では約100万個、ワンちゃんでは約41.5万個あるのに対し、ネコちゃんは腎臓1つあたりのネフロンが約19万個しかありません。

このため、ネコちゃんは他の動物よりもネフロンの予備能力が少なく、腎臓病の発症が多いと考えられています。

腎臓病の種類

腎臓病には多くの種類がありますが、精密検査をおこなっても正確な診断がつかないことが多く、一般的には「急性腎障害」と「慢性腎臓病」の2種類に分けられます。

急性腎障害

様々な原因により、「急激に腎臓の機能が低下した状態」を急性腎障害と呼びます。
腎臓そのものに異常がある場合だけでなく、腎臓以外の臓器の異常によっても発症することがあります。

急性腎障害は、腎障害の原因となっている部位ごとに「腎前性急性腎障害」「腎性急性腎障害」「腎後性急性腎障害」の3つに分けられます。

“腎前性”急性腎障害
血液が腎臓に流れ込む手前の部位に異常がある」ことによって生じる急性腎障害のことを「腎前性急性腎障害」と呼びます。
心臓病や全身麻酔などによって腎臓に十分な血液が送られなくなる、大量出血や重度の脱水によって血液の量が少なくなるなどの原因によって発症します。

“腎性”急性腎障害
「腎臓そのものに異常がある」ことによって生じる急性腎障害のことを「腎性急性腎障害」と呼びます。
細菌やウイルスによる感染症、中毒、腫瘍など、様々な原因によって発症します。

“腎後性”急性腎障害
「腎臓から尿が出た後の部位に異常がある」ことによって生じる急性腎障害のことを「腎後性急性腎障害」と呼びます。
尿路結石や下部尿路の強い炎症、腫瘍などによって、尿管や尿道が詰まってしまったり尿の流れが悪くなったりすることで発症します。

急性腎障害の症状

初期症状としては、元気・食欲の低下、嘔吐、下痢などの症状が現れます。

病態が進行すると腎臓の機能が急激に低下して尿を作れなくなり、尿とともに排泄するべき老廃物や毒素が体内に蓄積する「尿毒症」と呼ばれる状態になってしまいます。

最終的にはけいれんを起こしてしまったり、体に力が入らずぐったりしてしまうなど、ワンちゃん・ネコちゃんの命にかかわることも多い病気です。

急性腎障害は数時間~数日の間に急激に進行する病気であり、早期発見と的確な治療をおこなうことが重要です。

ワンちゃん・ネコちゃんの体調が急に悪くなったり、腎臓に毒性のあるものを食べてしまったりした場合は、すぐに動物病院を受診するようにしてください。

急性腎障害の治療

ワンちゃん・ネコちゃんが急性腎障害と診断されるケースでは、病態がかなり進行していることが多く、入院下での集中治療が必要となります。

静脈点滴によって水分・ミネラルなどのバランスを整えながら、腎障害を引き起こしている原因を特定し治療していきます。

迅速な集中治療によって回復することもありますが、適切な治療をおこなっても命を落としてしまうケースも少なくありません。また、一命をとりとめた後も慢性腎臓病に移行してしまうことがあります。

急性腎障害の予防

急性腎障害の原因は多岐にわたるため、そのすべてを予防することは難しいのですが、発症リスクを下げるために以下の対策を行うことが重要です。

・脱水を起こさないよう、常に新鮮なお水を飲めるようにしておく
・定期的な健康診断を受け、腎臓や心臓などの臓器に異常がないかチェックする
・腎臓に毒性のあるものを口にしないよう、環境を整備する
・尿路結石の既往がある場合は、食事管理などで再発を予防する
・尿量が少ない・排尿しづらそうな様子がある場合はすぐに動物病院を受診する

慢性腎臓病

腎機能の低下や腎臓の障害が長期間続いている状態を「慢性腎臓病」と呼びます。

先にお伝えしたように、腎臓の組織は常にすべてが働いているわけではなく、一部の組織が働けなくなっても他の部分がそれを補えるようになっています。

慢性腎臓病は「他の組織が補いきれないほど、腎臓全体の組織の機能が低下してしまった状態」であり、腎機能が本来の3分の1以下になってしまった状態とされます。

こうした状態になるまでは目立った症状も現れず、ワンちゃん・ネコちゃんも見た目は元気なことが多いため、症状が出る頃には病態がかなり進行していることが多いのが特徴です。

慢性腎臓病は通常、数ヶ月~数年という期間をかけてゆっくりと進行します。

慢性腎臓病の症状

・お水を飲む量が増える
・色の薄い尿を大量にする
・元気・食欲の低下
・嘔吐
・貧血
・毛艶がなくなる
・口内炎、胃炎
・便秘
など

これらの症状が出ている場合、慢性腎臓病がかなり進行している可能性があります。
少しでも思い当たる症状がある場合は、早めに動物病院を受診しましょう。

慢性腎臓病は治る?

一般的に慢性腎臓病は、ゆっくりとしたスピードではありますが、確実に進行していく病気です。

慢性腎臓病の進行を完全に食い止めたり、機能しなくなってしまった腎臓の組織を元に戻したりすることはできないため、慢性腎臓病を「治す」ことはできません。

慢性腎臓病の治療は、「進行をできるだけ遅らせること」「老廃物や毒素をできるだけ体内に溜めないようにすること」「体のつらさをできるだけ和らげること」などを目的におこないます。

慢性腎臓病の治療

様々な検査をおこなった結果、腎障害を起こしている原因が特定できれば、その原因に対する治療を優先します。しかし、原因が特定できないケースも多く、一般的には対症療法的な治療がおこなわれます。

具体的な治療内容としては、脱水予防や老廃物の排泄促進のために点滴をしたり、腎臓の負担を軽減するために食事療法や投薬治療をおこなったりします。
実施できる病院は限られますが、末期状態では透析治療や腎移植を検討する場合もあります。

慢性腎臓病の予防

慢性腎臓病の予防法は、残念ながらまだ見つかっていません。
急性腎障害と同じように、腎臓に毒性のあるものを口にしないように日常生活で注意したり、新鮮な水を自由に飲めるように環境を整備してあげたりすることが重要です。

また、若いワンちゃん・ネコちゃんでも少なくとも1年に1回、シニアのワンちゃん・ネコちゃんの場合は半年に1回以上のペースで健康診断を受け、慢性腎臓病の兆候がないか確認し、早期発見に努めましょう。

慢性腎臓病の食事管理

慢性腎臓病では、普段の生活の中で腎臓の負担を減らして病態の進行をゆるやかにするために、毎日の食事管理がとても重要になります。

食事管理の目的

・必要なエネルギーをしっかり摂ること
・腎臓に有害な老廃物の元となるタンパク質の量・質の調整
・水分・ミネラル・ビタミンなどの調整
・腎臓病悪化の原因となるリンなどの制限

必要なエネルギーをしっかり摂ること
慢性腎臓病の場合でも、健康なワンちゃん・ネコちゃんと同程度のエネルギーを食事から摂る必要があります。

しかし、慢性腎臓病が進行することで食欲の低下や胃炎・口内炎が引き起こされ、食べられる食事の量が少なくなることがあります。そのため一般的な慢性腎臓病用の療法食は、少量でもエネルギーを摂りやすくするために、脂質の含有量が多めになっています。

腎臓に有害な老廃物の元となるタンパク質の量・質の調整
腎臓の機能が低下すると、尿とともに排泄されるはずの老廃物が体内に蓄積してしまいます。この状態を「尿毒症」と呼びます。

尿毒症の原因となる老廃物の一部は、タンパク質の分解・消化の過程で作られるため、慢性腎臓病のワンちゃん・ネコちゃんがタンパク質の多い食事を摂ると体調を悪化させてしまう可能性があります。

しかし、「タンパク質が少なすぎる食事はかえって慢性腎臓病の進行を早めてしまったり死亡率を高めてしまったりする」という研究もあります。慢性腎臓病のワンちゃん・ネコちゃんでは「良質なタンパク質を使用し、与える量を適度に制限する」ことが重要です。

一般的な腎臓病用の療法食では、タンパク質の量が少なめに設計されていますが、タンパク質が不足してしまわないよう、健康なワンちゃん・ネコちゃんの栄養基準の最低ライン以上にタンパク質を含むように設計されています。

水分・ミネラル・ビタミンなどの調整
腎臓の機能が低下すると、体内の水分・ミネラル・ビタミンなどのバランスの調整が難しくなります。そのため、これらの成分の過不足が起きないように、食事でコントロールしてあげる必要が出てきます。

慢性腎臓病では尿の量が増えて脱水を起こしやすくなるので、ドライフードをふやかして与えたり、ウェットフードを与えたりして、食事と一緒に水分を摂ってもらうように工夫することも重要です。

腎臓病悪化の原因となるリンなどの制限
腎臓の機能が低下すると、リンの排泄がうまくできなくなり、体内に蓄積していきます。

リンはカルシウムの代謝と密接に関わっています。血液中にリンが増えると、骨から血液にカルシウムが溶けだして骨がもろくなってしまったり、血液中のカルシウムが腎臓に蓄積して腎臓の負担がさらに大きくなってしまったりします。

誤食に注意! 腎臓に毒性のある身近なもの

私たちの日常生活のなかにも、ワンちゃん・ネコちゃんが誤って口にしてしまうと腎臓に大きな負担をかけてしまうものがあります。十分にお気をつけください。

お薬

痛み止めや抗生物質などのお薬は、腎臓に負担をかけてしまうことがあります。
特に「人間用のお薬」は、ワンちゃん・ネコちゃんにとってはかなりの高用量となってしまうため、誤って1錠飲んでしまっただけでも重篤な症状につながる可能性があります。

お薬の保管や服用は、ワンちゃん・ネコちゃんが入らないお部屋でおこないましょう。

ブドウ・レーズン

ワンちゃんがブドウやブドウ加工品のレーズンなどを食べてしまうと、中毒を起こし、腎臓に大きな負担がかかってしまいます。

ブドウの果肉、皮、種、搾りかすなど、市販されているブドウのすべての部位がブドウ中毒の原因になるといわれています。ブドウに含まれるどの成分が中毒の原因となっているのかはまだ解明されておらず、毒性が現れる量や致死量などについても分かっていないことが多いのが現状です。

Eubig氏らの研究によると、ブドウはワンちゃんの体重1kgあたり19.6g、レーズンは体重1kgあたり2.8g摂取すると腎障害が現れるとされています。

※Eubid PA, Brady MS, Gwaltney-Brant SM, Khan SA, Mazzaferro EM, Morro CM:Acute renal failure in dogs after the ingestion of grapes or raisins: a retrospective evaluation of 43 dogs (1992-2002)

また、様々な研究データから、体重3kgのワンちゃんがブドウを1房食べてしまうと致死量に達すると考えられます。

ネコちゃんの場合は、ワンちゃんと同じようにブドウによる中毒が発生するのかはまだ分かっていませんが、与えないようにした方がよいでしょう。

ユリ科植物

ネコちゃんがユリ科の植物を食べてしまうと中毒を起こし、腎臓に大きな負担をかけてしまうことが知られています。

ワンちゃんのブドウ中毒と同じく、ユリ科植物のどの成分が中毒症状を引き起こすのかは解明されていません。しかし、花・葉っぱ・茎・花粉すべてが有害であり、ごく少量食べてしまっただけでも中毒を起こし、命に関わることがあります。また、ユリ科植物の入った花瓶の水を飲んだだけでも中毒を起こすことが分かっています。

ワンちゃんではユリ科植物による腎障害はないとされていますが、嘔吐などの消化器症状を引き起こすといわれているので注意が必要です。

ワンちゃん・ネコちゃんがいるご家庭ではユリ科植物を置かないようにし、万が一、ワンちゃん・ネコちゃんがユリ科植物を食べてしまった場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。

その他

殺虫剤や除草剤、不凍液なども腎臓に毒性がありますので、ワンちゃん・ネコちゃんの手の届かない場所に保管するのはもちろん、お散歩の際にも除草剤が撒かれていそうな草むらは通らないなどの注意が必要です。

まとめ

今回は、ワンちゃん・ネコちゃんの腎臓病について解説させていただきました。

腎臓は生命の維持にとても重要な臓器で、腎臓の機能低下は命に関わります。

腎臓病の症状が現れる頃には病態がかなり進行してしまっていることが多いため、定期的に健康診断を受けて早期発見・早期治療を開始することが重要です。

また、腎臓に毒性のあるものをワンちゃん・ネコちゃんの手の届く場所に保管しないなど、腎臓病の発症リスクを減らす環境づくりをしてあげましょう。

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